Brand and Davis(2011) "The Impact of College Education on Fertility: Evidence for Heterogeneous Effects"

Brand, Jennie E. and Dwight Davis. 2011. "The Impact of College Education on Fertility: Evidence for Heterogeneous Effects." Demography 48: 863-87.

 

 大学教育が女性の出産に与える因果効果の異質性に焦点を当てている論文です。いわゆるpositive selection/negative selectionの問題を扱っています。

 大学教育を受けた女性は平均すると出生確率が低くなるものの、より大学に行きやすいグループの人々が実際に大学に行った場合と、より大学に行きにくいグループの人々が実際に大学に行った場合とで、効果の大きさが異なりうると主張されます。社会経済的に不利な人々は大学に進学しづらいものの、実際に進学する場合にはそこから得られる経済的利益への期待が大きくなり、出産による機会費用を大きく見積もるため、大学教育が出産に与える負の効果がより大きいという仮説になっています。

 処置変数は19歳時点で大学1年次を修了しているかどうかと、23歳時点で大学を卒業しているかどうかで、それぞれの傾向スコアを求めています。日本の場合は大学進学者の卒業率が9割近くありますが、中退が多いアメリカの場合には、区別した方がよいのでしょうね。

 傾向スコアを層別にわけて、レベル2の係数の傾きを求めるという方法ですが、層の区切り方を若干注意して読みました。層の数は6つに設定されています。5つあればだいたい十分というのがたしかCochranの論文による主張だったので、共変量の統制という面では問題ないのでしょう。

 閾値については、本論文では(1)[0.0-0.1),(2)[0.1-0.2),(3)[0.2-0.3),(4)[0.3-0.4),(5)[0.4-0.6),(6)[0.6-1.0)という区切り方でした。キリのよい数値で区切られていますが、どの層にも処置群・対照群が一定数ケースとして確保できており、かつ各層内で共変量がバランスできているのが確認できたのでよしという判断でしょうか。

Yamaguchi (2017) "Decomposition Analysis of Segregation"

Yamaguchi, Kazuo. 2017. "Decomposition Analysis of Segregation." Sociological Methodology 47(1): 246-73.

 

 DFL分解の新しい2つの拡張法が提案されています。

 前半の方法は、傾向スコアによる複数のウェイトを用いて異なる反実仮想状況と比較することによって、因果推論の文脈におけるATE,ATT,ATCに相当する推定量を計算できるというものです(ただし、因果効果としてみなすことについては本論文は抑制的)。以前に、Neumark(1998)という論文を読んだ時に、要因分解をする際の基準カテゴリーの取り方は恣意的な問題ではなく、分析上の関心と強く結びつきうることを学んだのを思い出しました。

 後半の方法は、アウトカムの分布が労働供給側の属性にのみ依存しているという仮定を緩和し、アウトカムの分布が需要側によって制約されていることを仮定するというものになっています。これがSUTVAの緩和に関する問題だという指摘には、なるほどと思いました。

 アウトカムの周辺分布を固定するためのウェイトを作るというのがアイディアになっていますが、具体的な計算方法は一読ではよくわかりませんでした。挙げられている関連文献から読まないとちゃんとは理解できなさそうな印象です。

Knight and Brinton (2017) "One Egalitarianism or Several? Two Decades of Gender-Role Attitude Change in Europe"

Knight, Carly R. and Mary C. Brinton. 2017. "One Egalitarianism or Several? Two Decades of Gender-Role Attitude Change in Europe." American Journal of Sociology 122(5): 1485-1532.

 

 潜在クラス分析の頑健性の確認のために、いくつか補足的な分析が行われており勉強になりました。

 

  • 多くの性別役割分業意識の研究は、伝統的/リベラルという一次元で捉え、近代化とともにリベラルな方向へと単線的に変化すると想定してしまっている
  • 性別役割分業意識を多元的なものと捉え、国ごとに異なる変化を明らかにする
  • データはWorld Value SurveyとEuropean Value Survey
  • 性別役割分業意識に関する7つの項目から、潜在クラス分析によって4つの類型を抽出
  • (1)伝統主義(traditionalism):すべての項目において伝統的な女性の役割を支持。一貫して減少傾向にある。
  • (2)リベラル平等主義(liberal egalitarianism):典型的なジェンダー平等主義として描かれる類型に相当する。夫婦はともに家計に貢献すべきという考えや、仕事を持つことが女性が自立する上で最良の手段であるという考えを支持する。主婦であることが賃労働と同じように充実しているという考え方は否定する。
  • (3)平等主義的家族主義(egalitarian familialism):リベラル平等主義と同様に、夫婦はともに家計に貢献すべき、仕事を持つことが女性が自立する上で最良の手段であるという考えを支持する。しかし、家族や子どもを持つことが女性の人生において必要であるという本質主義的な考えを支持するのが特徴。東欧諸国において増加した類型である。
  • (4)柔軟な平等主義(flexible egalitarianism):リベラル平等主義と同様に、男性の労働市場での優先を否定し、また仕事を持つ女性は主婦と同じように子どもとよい関係を保てると考えている。しかし、夫婦はともに家計に貢献すべきという意見への支持は弱く、主婦であることは賃労働と同程度に充実したものでありうるという意見への支持が強い。また、家族や子どもについての女性の人生にとって本質的であるという考えは否定する傾向にある。フィンランドでは90年代にリベラル平等主義が減少し、この類型が増加した。

Goodman and Liao (2016) "Paul Felix Lazarsfeld’s Impact on Sociological Methodology"

Goodman, Leo A. and Tim F. Liao. 2016. "Paul Felix Lazarsfeld’s Impact on Sociological Methodology." Bulletin de Méthodologie Sociologique 129: 94-102.

 

 短い論文ですが、読むべき文献がたくさん挙がっていました。

 投票行動研究、マスメディア研究、パネルデータ分析など様々な分野において膨大な功績を残しているLazarsfeldですが、彼自身が方法論の分野でもっとも誇りに感じていたのは、潜在クラス分析を導入したことであると論じられています。

 その後に潜在クラス分析の主な歴史に触れられており、特にGoodmanによる最尤法を用いた推定がブレイクスルーになったとのことです。

Biegert (2017) "Welfare Benefits and Unemployment in Affluent Democracies: The Moderating Role of the Institutional Insider/Outsider Divide"

Biegert Thomas. 2017. "Welfare Benefits and Unemployment in Affluent Democracies: The Moderating Role of the Institutional Insider/Outsider Divide." American Sociological Review 82(5): 1037-64.

 

 寛大な失業給付は就業に対する意欲を失わせてしまうのか、それともよりよい仕事へのマッチングを高めるのかという問題に関して、制度的な文脈による異質性を考慮して分析した論文になっています。

 インサイダー/アウトサイダーの分断が大きい社会では、失業給付はむしろ失業を長期化させるだろうという仮説です。(1)有期雇用者に対する無期雇用者の雇用保護の強さ、(2)労働組合の組織率、(3)賃金交渉の中央化の度合いによって、その分断を指標化しています。

 データは、1992年から2010年のEuropean Labour Force Survey(20ヶ国)と、アメリカのCurrent Population Surveyです。これらは繰り返しのクロスセクション調査ですが、同一の社会人口学的グループが継続して観察されていると見なす、「疑似パネルデータ」に変換して分析しています。これによって、固定効果モデルによる時間不変の変数の除去を可能にしています。

 引用文献を見てはじめて知りましたが、疑似パネルデータへの変換手法にはAngus Deatonが貢献しているのですね。

 

山田史生『絶望しそうになったら道元を読め!――『正法眼蔵』の「現成公案」だけを熟読する』

 

絶望しそうになったら道元を読め! 『正法眼蔵』の「現成公案」だけを熟読する (光文社新書)

絶望しそうになったら道元を読め! 『正法眼蔵』の「現成公案」だけを熟読する (光文社新書)

 

 

 前に電子書籍で買っていたものを、今になって読みました。

 『正法眼蔵』の巻頭に収められている「現成公案」という2,500字程度の短い文章から、禅思想の本質を読み解くというものです。1冊を除いて解説書には頼らないというスタイルであり、そのため随所に、「~おもいます」と著者の解釈が前面に出されています。

 「諸法」と「仏法」のあり方については、観察変数と潜在変数の関係をイメージしながら読みました。著者も、「落下するりんご」と「万有引力」を例に出しているので、あまり間違った捉え方ではないようです。

ウォーズマン理論と線型性

 


  私の知る限りでは、線型性の仮定についてフィクション作品でもっとも考える素材を提供してくれているのが、ウォーズマン対バッファローマン戦です。

 

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