石破茂(2018)『政策至上主義』

 

政策至上主義 (新潮新書)

政策至上主義 (新潮新書)

 

 

 今年9月の自民党総裁選に出馬すると見られている、石破茂議員の近著です。あまり政治家の著作は読んでいませんね。元政治家まで含めても、2年前に読んだものまで遡ってしまいますか。

 

  • とりわけ現代においては、理性よりも感情によって駆動されることが少なくないのが政治の世界ですが、あえて「政策」を表題に掲げ、増税などの「不利益の分配」に関する事実も国民に説明しなければならないということが随所で強調されています。
  • 「もう政権には戻れない」という思いだったという、2009年に自民党が下野した頃の反省が冒頭に置かれています。
  • 地方創生担当相としての仕事は、正直なところほとんど知らなかったので勉強になりました。マスメディアであまり扱われないこともあると思いますが、本書でも言われているような、東京中心のバイアスが自分の中にもあるのかもしれません。
  • 今度の総裁選で争うことにもなる安倍首相に関しては、思ったよりも否定的な意見は書かれていないという印象で、特にアベノミクスについてはおおむね肯定的な評価がなされていました。むしろ、安倍政権に対して後ろから矢を射る存在であると見なされるのが多いことへの不満が挙げられています。
  • 「軍事マニア」と称されるだけのこともあり、防衛・安全保障政策に関する章は読み応えがありました。特に集団的自衛権の行使に関して、自民党の方針とは異なり、憲法の問題ではなく通常立法の範囲で制限されるべきものだという主張は、こだわりが感じられる部分です。
  • その他の政策(教育など)の部分はやや物足りないというか大雑把な印象も受けましたが、新書ということもありますし、また政治家の仕事は研究者とは異なり、大きな青写真を描くことであるという面もあるでしょう。そもそも、自分の言葉で政策を語れる議員が日本では比較的少ないわけです。
  • 議員当選前に田中角栄事務所で働いていた頃に経験した、田中派のシステマチックな選挙戦略の部分は興味深く読みました。パソコンやインターネットが普及する以前に、全国の情報をかき集め、各地の候補者に効率的に応援を送り込んでいたというものです。

Mun and Jung (2018) "Policy Generosity, Employer Heterogeneity, and Women’s Employment Opportunities: The Welfare State Paradox Reexamined"

 

Mun, Eunmi and Jiwook Jung. 2018. "Policy Generosity, Employer Heterogeneity, and Women’s Employment Opportunities: The Welfare State Paradox Reexamined." American Sociological Review 83(3): 508-35.

 

 寛大な家族給付を伴う社会政策は、雇用主が女性を雇ったり昇進させたりするインセンティヴを減らすことで、その政策の目的とは反する帰結がもたらされるという、「福祉国家のパラドックス」として知られる理論を、日本を事例として検証した論文です。

 

  • 「福祉国家のパラドックス」は、労働供給側・需要側の双方のプロセスから起こりうるものであるが、これまでの実証研究は主に前者を対象としたものであった。既存研究は、育休の給付期間が伸びることで女性の家事労働が増え、職場に復帰する確率が減少することを明らかにしている。
  • 本論文では、雇用主側のメカニズムについて検証を行う。理論的に想定されてきたのは、統計的差別である。家族給付を拡充する政策によって男性よりも女性は平均的に生産性が減少すると雇用主が想定することで、女性の雇用・昇進の可能性が減少するというものである。
  • 福祉国家のパラドックスは、政策によって誘導された(policy-induced)雇用主による差別という意味で、従来的な統計的差別とは区別される。そこには2つの理論的な仮定がある。(1)統計的差別は大部分の雇用主が政策の介入に対して起こす反応である。(2)政府は家族政策を実施する上でおおむね同じアプローチを採用する。この意味において、福祉国家のパラドックスはある種の法的介入(たとえば強制的な実施)に対するある種の組織レベルの反応(たとえば統計的差別)によるアウトカムであると言うことができる。
  • 福祉国家のパラドックスにおける既存研究では、統計的差別は政府の介入に対して雇用主が採る受動的な反応であると想定されてきた。しかしながら、公共政策のような外部の要求に対する雇用主の反応は相当にばらつきが存在する。法的な処罰を避けるために単に受動的に法を遵守するのではなく、むしろ政策介入に対して正当性を確保するために、積極的な反応をする組織も存在するのである。
  • 組織研究における知見によれば、家族政策に対する雇用主の反応は、過去の意思決定を通じて積み重ねてきた内的なロジックに依存すると考えられる。家族向けの福利厚生を提供してきた雇用主は、家族政策のメリットをより認識しやすいかもしれない。たとえば日本企業の中では、特に集中的なOJTを提供する企業ほど、企業特殊的人的資本を有した女性を維持するために家族を優遇する政策を推進していることが知られている。政策介入に対する雇用主の反応の異質性を考慮することが、福祉国家のパラドックスを検証する上で重要なのである。
  • ある政策の介入が強固な施行メカニズムを持たない場合には、雇用主は必ずしも抵抗しないかもしれない。そうした状況の下では、雇用主は実際の行動を変えることなく、象徴的に遵守することが可能である。
  • 既存研究では、直接的な監視や強制ではなく、自発的な遵守とインセンティヴに基づく政策に対する雇用主の反応である。違反に対するペナルティがない場合には、雇用主は遵守した場合の利益に集中するかもしれない。
  • 本論文では、日本の家族政策における2つの政策介入を対象とする。第一に、1992年の育児休業法であり、第二に2005年の改正育児休業法である。1992年の法改正が雇用主に12ヶ月の育休を実施させることを強制するものであったのに対して、2005年の改正は企業が積極的な家族優遇措置を採ることへのインセンティヴを重視したものになっている。
  • 分析の戦略として、政策変化前の3年間と変化後4年間における、女性の雇用・昇進に関するアウトカムを比較する。
  • 1989年から2009年までの「就職四季報」から、企業レベルのパネルデータを構築した。就職四季報では、様々な産業における1000近くの大企業がサンプルとなっている。さらに、「日経NEEDS」を利用して、企業の財務データを追加した。アウトカムとして利用するのは、女性管理職(実数を対数化したものと、対数オッズ化したもの)と新卒の女性正規雇用・ホワイトカラー(実数を対数化したものと、対数オッズ化したもの)である。
  • 1992年の政策変化についてはそれぞれの企業を、(1)政策変化前からの育休を自発的に実施していた企業(prior provider)と、政策変化後に実施した企業(prior non-provider)に区別する。2005年の政策変化については、(1)政策変化以前から法的基準以上の長さの給付を行っていた企業(prior over-provider)、(2)政策変化後に法的基準以上の長さの給付を行うようになった企業(responsive over-provider)、(3)政策変化後も法的基準以上の長さの給付を行わなかった企業(never over-provider)に区別する。
  • 分析の結果、福祉国家のパラドックスの理論的な主張はほとんど支持されない。1992年の政策変化に関しては、prior non-providerであっても女性の雇用・昇進を減らすことはなく、prior providerはさらにそれらを拡充していた。2005年の政策変化に関しても同様であり、prior over-providerがもっとも女性の雇用・昇進を増やしていることが確認された。
  • これらの知見から、福祉国家のパラドックスはもっぱら労働供給側のメカニズムによるものではないかと考えられる。新たな家族政策が導入される際に、女性は自らののキャリア選択を新たな機会構造に合わせて修正するのである。また、新たな家族給付を利用する際に、女性はたとえば家事労働の増加などの家庭内の性別役割分業の強化を経験することで、元のキャリアプランを追求することが難しくなる。
  • 雇用主が政策介入に対して異なる反応を示すという事実は、政策立案をする上でも重要となりうる。どのような企業が政策を遵守しやすいのかを特定し、それぞれに異なるアプローチを採るべきである。

Joli Jensen (2017) Write No Matter What: Advice for Academics

 

Write No Matter What: Advice for Academics (Chicago Guides to Writing, Editing, and Publishing)

Write No Matter What: Advice for Academics (Chicago Guides to Writing, Editing, and Publishing)

 

 

 先日読んだSilvia(2007)のAmazon Kindleページでおすすめに出てきたので、これも買いました。Silvia(2007)にくらべると、より細かいテクニックの紹介や、執筆に不安・停滞を感じる際の状況の分析が充実しているという印象でした。たとえばSilvia(2007)では、「執筆が進まないのを環境のせいにするのは甘えである。トイレだろうがどこだろうが執筆はできる」というように様々な言い訳を切り捨てる傾向にありましたが、本書では執筆環境の重要性が強調されています。Steven Kingの言葉を引用して、「すべての書き手にとって必要なのは『自ら進んで閉じられるドア』(a door you are willing to shut)である」と述べられています。

 著者自身、博士論文の執筆にはかなり苦労されたようで、そうしたエピソードから滲み出ているものがありますし、また自身の大学で長年組織している論文執筆のワークショップにおける経験に裏打ちされて、説得力が増している部分もあります。

 本書のアドバイスで特に目を引いたのは、"ventilation file"なるものの作成でしょうか。Silvia(2007)でも挙げられているプロジェクト・タスクのリストとは別に作ることが推奨されているものです。日本語に訳すならば、「感情の表出ファイル」などになるのでしょうか。要は執筆中に感じたあらゆる不安や苛立ちを吐き出すためのファイルとのことです。これを利用することで、執筆を停滞させている誤った考え("writing myth")が何であるのかを明らかにすることを目的としています。本書に挙げられている虚構として、「一生の大作を書き上げないといけないという虚構」(magnum opus myth)や、「敵意を持ったレビュアーの批判にすべて答えられなければいけない虚構」(hostile reader myth)などは自分の経験でも思い当たるところがあります。

 自分でも試しにventilation fileを作ってしばらく実践してみました。感想としては、ネガティヴな感情を吐き出すよりかは、「今の論文には書くほどのことはではないけれど、将来的にこういう分析もできそう」とか、「ランチ食べた後にどのような作業をするか」など、アイディアや備忘録などを書き出すファイルとして役に立つように思いました。研究に対するネガティヴな感情ももちろん湧き上がることはありますが、そういう場合は単にPCから離れて休憩をとった方が自分にはうまく働くという印象です。

 他にも1日の研究時間をどのように配分するか(エネルギーの充実度によって分け、もっとも充実している「A時間」を執筆に当てる)、複数のプロジェクトをどのように並行して進めるか("back burner project"を持つ)なども興味深い章でした。

 

Zippo Rechargeable Hand Warmers

  

 

 オフィスの冷房が効きすぎていて、毎日震えながら仕事をしています。こちらからは止めることができず、かつ設定温度を最大にしても、かなり寒いです。

 寒さ対策として、USB充電式のハンドウォーマーを購入しました。スイッチを入れてすぐに温まるので、使いやすいです。出力は5段階に調整可能ですが、2,3段階目で十分な温度です。充電と同時に起動はできないようですが、最大で6時間可動できるようなので、帰りに充電につないでおけば1日問題なく使用できます。

 

[英訳]藤田(1992)「教育社会学研究の半世紀」4節

藤田英典,1992,「教育社会学研究の半世紀――戦後日本における教育環境の変容と教育社会学の展開」『教育社会学研究』50: 7-29.

 

 日本語は繰り返しを厭わない言語ですが、英語ではそれを嫌う傾向があるので、英訳する時はどのように表現を変えるべきか悩まされる場面が多かったです。

 

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献血

 

 近くのWhole Foodsに献血車(blood drive)が来ていたので、献血に行ってきました。学部時代にはしばしば吉祥寺と池袋の献血ルームに行っていたのですが、ずいぶん久しぶりで、かつアメリカでは初めてです。

  • あらかじめウェブで予約し、質問に答えておくことで待ち時間を少なくできるのはよいシステムだと思いました。
  • アメリカの多くの施設と同様に、献血車もめちゃくちゃ冷房が効いていたので、長袖を持ってゆくべきでした。
  • ふだん病院には行きませんし、医学系の論文もそれほどは読まないので、hepatitis、syphilis、Creuzfeldt-Jakob diseaseなどの語彙に触れるのも新鮮な経験でした。
  • 日本だと200mlと400ml献血の区別がありますが、アメリカの赤十字ではないようです(whole bloodという括り)。終わった後になんか多く採られたなという気がして、後で調べてみたところ1パイント(約473ml)が基準のようです。

 

Evernoteのintitle演算子についての不満

 

 Evernoteには検索を便利にするための演算子が設けられていて、そのうちの「intitle:」をよく使っています。指定したキーワードがタイトルに含まれているノートを絞り込んで表示してくれるというものです。たとえば、「intitle:シラバス」と入力すると、「シラバス」がタイトルに含まれたノートを一覧で見ることができます。

 一番よく使う場面は保存している論文を探すときで、特定の著者の論文や、部分的にタイトルを覚えている論文を探すのに重宝しています。また仕事以外でも、保存している料理レシピから、特定の種類の料理を探す際などにも役に立つことがあります。

 ただし、この機能の注意すべき点として、ノートのタイトルが「アルファベット+数字」のような形になっていると、これらを区別せずに一つの単語として認識するために、検索したいノートが見つからないことがあります。

 たとえば、ノートのタイトルを「PISA2003」のようにしていると、「intitle:PISA」とした際に、このノートが表示されません。これを避けるためには、「intitle:PISA*」のようにワイルドカード記号を使用して検索するか、あるいはあらかじめノートのタイトルを「PISA 2003」のようにしてアルファベットと数字の間に半角スペースを入れておくなどの方法を取る必要があります。 完全一致させて検索したいという場面はそれほど多くないので、この仕様は若干不便に感じることがあります。

 なお、「全角文字+数字」の場合には同様の問題は起きず、たとえば「就業構造基本調査2017」というタイトルのノートがあったとして、「intitle:就業構造基本調査」と入力すれば、このノートは表示されます。