牧野篤『中国変動社会の教育―流動化する個人と市場主義への対応』

中国変動社会の教育

中国変動社会の教育

改革・開放政策以降、中国では教育の分野でも市場の需要を考慮した改革が盛んに行われている。

知識産業分野の人材需要は大きく増えていないものの、中堅技術労働者はかなり不足している。よって、大卒の就職難が問題になる一方で、職業高校の就職率はほぼ100%を達成している。

日本の職業高校は工業・農業・商業と大雑把なくくりで、普通教科のカリキュラムが占める割合も多い。
一方、中国ではかなり細分化されたコース編成(エアコンの修理、エレベーターの保守など)が行われており、3年生になると企業に行って1年間実習が行われる。つまり、入職前の専門技能の養成がかなり重視されている。

それだけ細分化された専門技能の養成だと、技術変化、産業の盛衰に対応できないのではないかという疑問が出るが、そのためにコースの改廃が頻繁に行われている。また、学校が保有する訓練センターは卒業生や社会人にも利用することができ、再教育・再訓練の機会が開かれている。また、学校は企業と連携してカリキュラムを決めたり、相互に人材交流・研修を行ったりしている。名目としては社会主義の中国の方が、日本よりも市場の需要に柔軟に対応した教育を行なっているように見える。

充実した専門教育・実習ができる背景には、職業高校の学費が割高に設定されていることや、中央政府が技術労働者の養成を国家目標として掲げ、多くの予算が投入されていることがある。特に重点高校では、高価な設備が導入されている。また、訓練センターを社会人が使えるのも、税金が投入されているのだから社会に開かれるべきという論理だ。

企業はどのような人材がどれほど欲しいかを高校に要望している。ここには、日本と同じような学校を経由した就職の形態がある。しかし、だからといって日本のように卒業時点では普通教科の学力や生活態度を重視して、人材養成は企業に入ってからでよいという仕組みにはしていない。生徒は在学中に卒業証書だけではなく、職業資格を取得し、企業に入ってゆく。


日本のこれからの後期中等教育を考える点で参考になる点は多いが、一方で、中国都市部の教育は農村との大きな格差を残したまま発展してきている。


これからまとめるが、今回の調査は非常に学んだことが多かった。