ティム・オブライエン,村上春樹訳『本当の戦争の話をしよう』


本当の戦争の話をしよう (文春文庫)

本当の戦争の話をしよう (文春文庫)

米国の作家、ティム・オブライエンの作品。村上春樹の翻訳者としての実力も光っている。

作者は20代の時にベトナム戦争に歩兵として参加し、以来それを題材とした小説を書き続けている。本作も作者のベトナム戦争体験に基づく短編集だ。

本作の何とも奇妙なところは、それが「本当の戦争の話」というタイトルを銘打ちながら、同時に「ここに記録したできごとの多くは実際には起きていない」と語っていることだ。このような逆説的なタイトルは作者の以下のような考えに基づいている。

本当の戦争の話には一般法則というものはない。
それらは抽象論や解析で簡単にかたづけられたりはしない。

作者曰く「本当の戦争」は極めて具体的なものであるがゆえに、本作は不必要とも思えるほど細かく、実際には起きていない描写がなされている。

本作はいわゆる「反戦小説」ではない。戦争の愚かさが語られているわけでもなければ、人間愛や平和が語られているわけでもない。ただある時、ある場所で起きた戦争と、そこにいた人々を描いた小説だ。