小松秀樹『医療の限界』

医療の限界 (新潮新書)

医療の限界 (新潮新書)

2006年に『医療崩壊』(朝日新聞社)で話題になった著者の本。今回は医療に関して、患者や世間の無理解が医療従事者との対立を生み、様々な問題を引き起こしているという内容。

「安心・安全の医療を」というスローガンはよく新聞報道で見られ、事故を起こす医師を非難する際に用いられる。しかし著者によれば、医療とは本質的にリスクを伴う不確実なものであり、事故は避けられないものだという。

しかもリスクを出来る限り抑えるためには、人的・物的なリソースが十分にあることが不可欠だ。だが、近年の医療費の抑制によって、医療従事者たちは不十分な設備の中で長時間の労働を強いられている。人間が環境の影響を強く受ける動物である以上、これでは事故は減らせないと著者は言う。

だが、このような状況は一般にはほとんど知られていない。かくいう自分も最近まで、医者は高収入で失業の心配もなく、恵まれた職業だと思っていた。実態としては、私立医科大の病院に勤務する医師は必ずしも収入が高くないし、またほとんどの医師は労働基準法で定められている時間を超えた過酷な労働をしているとのことだ。

厳しい労働環境と患者からの批判に耐えられなくなった医師から辞めてゆく。それが現在起こっている「医療崩壊」だ。


医療に関する無理解をいかに解消するか。これは複雑な要因が絡まっており、難しい問題だ。一つ言えるのは、著者も指摘している通り、医療が市場原理に必ずしもなじまないということなのかもしれない。本来、公共財であるはずの医療を患者が通常財と勘違いすることで、ありえないサービスの質を要求することになり、モンスター化を招いているというのが問題の一側面ではないだろうか。