『げんしけん(1)〜(9)』


げんしけん(1) (アフタヌーンKC)

げんしけん(1) (アフタヌーンKC)

学科の先生が、「若者の文化に関する研究会」みたいなのに入っていて、そこで参考文献に挙げられていたとかで紹介していた。という経緯で興味を持ち、先輩からお借りして読んでみた。

舞台は「現代視覚文化研究会(現視研)」という、とある大学の中で漫画・アニメ・ゲームなどを総合的に扱うサークル。オタク文化を中心に、そこに集まった人々の織り成す物語が描かれている。

本作で面白いのは、秋葉原コミックマーケットに象徴されるようなステレオタイプのオタクだけではなく、その様々な側面を掘り下げたところにあると思う。

例えば、本作は主人公が大学に入学し、「現視研」に入部するところから始まる。そこでは主人公が戸惑いつつも、だんだんとオタク文化に参入してゆく過程が描かれている。すなわち、オタクといっても一枚岩ではないということで、当たり前のことながら新鮮に感じられた。

同様にして、全くの一般人でありながら、交際相手のオタク趣味をやめさせようとして「現視研」に関わる人物、ホモ同人誌趣味を持ちながらも過去のトラウマのために打ち明けられない人物などが出てくる。そのような雑多な人々がオタク文化の中で不思議なまとまりを持っている。本作では、大学の授業やアルバイトなど他の話題はほとんど出てこない。出てくるとしても「オタクが服を買いに行く」というように、あくまでオタク文化との関わりの中で語られる。

まだまだ世間的にはオタク文化への非寛容性がある中、本作が連載を開始した時点(2002年6月)での衝撃は大きかったのではないかと思った。

それだけに、中盤以降ありきたりなラブコメ展開になってしまったのは残念だった。「オタクと恋愛」というトピックはそれはそれで描く価値のあるものだとは思うが、本作で取り上げる必要性があったかどうかは疑問だ。

いや、トピックそのものに問題があるわけではない。「ネタがベタ化した」というか、アイロニカルな視点が消えてストレートになりすぎてしまっているところがおそらく問題なのだ。