本田由紀『軋む社会―教育・仕事・若者の現在』

軋む社会 教育・仕事・若者の現在

軋む社会 教育・仕事・若者の現在

非正規雇用やワーキング・プアなどの問題ついて、著者が新聞や雑誌に書いた記事を集めた本。

だいたいの主張は今まで読んだことがあるもので、「非正規雇用の人たちが厳しい処遇に置かれている」、「正規雇用の人たちも際限のない労働を求められて大変」、「政府のやろうとしていることは良くない方向に行っている」といったもの。もともとの媒体の特性もあって、詳細なデータは省かれて読みやすい文体で書かれているものが多い。

ぱらぱらとめくっていたら、コラムに載っていた次のような文章に目が留まった。

 先日、「働くこと」について若者が語り合っている座談会の記録を読んで(「ポスト世代ですが、何か?」『論座』2008年3月号)、その参加者のひとりの口から出たいくつかの言葉に、胸がふさがれる思いがした。それらの発言をした若者は、新規学卒就職が回復した2007年に、威信の高い大学を卒業し、広告会社に入社した男性である。
 まず、私の目を引いたのは、いわゆるワーキング・プアであったり、働けなかったりする若者に対して、彼が「見てみぬふり」「知らぬが仏」という気持ちをもっていると述べたことである。「そういう人たちがいる、だから何?って感じですかね」と。
(p.79)


まあ、そうなのかなと読んでいて感じた。
今の日本で威信の大学に通えるような人生を経てきたら、ワーキング・プアの人たちに出会う可能性は著しく低いわけで。それに、上に引用した人もおそらくそれなりに大変な仕事をしていて、そんなことを考える暇もないわけで。

ありきたりな言葉になってしまうが、「何だかみんな余裕がないよね」ということか。

あー、著者の文体に釣られてこっちまで暗い文章を書いてしまった。