吉川徹『学歴社会のローカル・トラック―地方からの大学進学』


学歴社会のローカル・トラック―地方からの大学進学 (SEKAISHISO SEMINAR)

学歴社会のローカル・トラック―地方からの大学進学 (SEKAISHISO SEMINAR)

ある学校の中でどのような成績の位置にいるか、あるいはどのような入学偏差値の学校にいるかなどで、その後の進路がある程度規定されてしまう。このような作用は、それがあたかも陸上競技のトラックのようになっていることから、トラッキングと呼ばれる。

本書はトラッキング概念を拡張し、学力だけではなく生まれ育った地域によってもトラッキングが起こることを明らかにしたもの。

対象は、島根県仁多郡というところにある公立高校の1つのクラスの卒業者たち。30数名のセンター試験の点数、入学した大学、大学卒業後の進路、18歳と24歳時点の社会意識を仔細に調べ、さらに24歳時点ではインタビュー調査も行っている。

ライフヒストリーと呼ばれる手法で、対象とした人々がどのような生活の変化を経験してきたかを描き出してあり、面白かった。質問紙調査はサンプルが少ないこともあり、信頼しがたい部分もあったけれど。

驚いたのは1990年頃の話とは言え、きょうだいで一人は地元に戻らなければいけないとか、大学は絶対に現役で入らないといけないとかいう語りが出てきたこと。自営業が多い田舎だと今でもそうなんだろうか。地方とは言っても、転勤族のサラリーマンが多い自分の実家からするとイメージがしにくい。

いずれにせよ、比較的特徴のある地域であるのは確かであり、著者の着眼のよさが出ていると思う。