『フツーの仕事がしたい』
あるトラック運転手を撮ったドキュメンタリーで、「21世紀に甦るリアル『蟹工船』」というキャッチコピーがつけられている。
もっとも働いていた時期で月の最大労働時間が約550時間という、聞くだけであり得ないような話なのだが、映像を観るとさらに衝撃だった。
労働組合に加入したことで会社から脱退するよう嫌がらせを受けたり、母親の葬儀に会社の「自称関係者」が恫喝して乗り込んできたりという、こんなブラック企業が実在するのかと驚いた。
単純に悪を糾弾するドキュメンタリーはあまり好きではないし、また規制緩和などで運輸業界が激しい競争に追われているということはあるのだろうけれど、それでも登場するトラック会社に対して若干の怒りを禁じえなかった。
また、肉体的に過酷な労働ということでは『蟹工船』と同じなのかもしれないけれど、本作のトラック運転手はもっときつかったのかもしれないとも思った。もちろん、比較することに意味があるのかという問題はあるけれど。
というのも『蟹工船』の場合は、妻と子どもがいて、手紙が届くというような場面がある。つまり、労働自体は厳しいが、帰るべき場所があるという点が重要。
一方、本作の場合は母親が亡くなった後も、働き、会社に対して抗議しなければならなかったという点で違う。また、見た限りこのトラック運転手は独身のようだったのだけれど、昔と違って今は収入の低さや、自由に使える時間の少なさが結婚する機会への影響も大きくなっている。
そうしたことを考えると、ある意味『蟹工船』よりも厳しいな、ということを思うわけだ。