『ある子供』

ある子供 [DVD]

ある子供 [DVD]

ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ兄弟による、第58回カンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞作。


ストーリーは↓のような感じ。

20歳のブリュノと18歳のソニアは定職に就かず、盗みによって生計を立てている。
ある日、2人の間に子どもが生まれ、ソニアはブリュノに真面目に働くようお願いをする。
しかし、ブリュノは金のために、生まれた子どもを売ってしまう。その後、自分の犯した事の重大さにブリュノは気づくが…というような話。


タイトルになっている「子供」とは、生まれた子どもだけではなく、主人公2人のことも多分指しているんだろう。

現代社会において、子どもはどのようにして大人になり得るか、というテーマがそこには存在している。
出産を経て、今までの生活を改めようとするソニアに対して、ブリュノはあいからわず犯罪から足を洗おうとしない。


作品の最後の方で、その変化が描かれるのだが、ブリュノが成長する契機となっているのは「痛み」であるように思う。
売り払った子どもを取り戻してきてもソニアが全く口をきいてくれないこと、共に盗みを働いていた少年が逮捕されたことによる「痛み」によって、ようやくこれまでの生活では駄目だということに気づいたんじゃないだろうか。


また、社会構造や階級構造の描写についても指摘できる。
盗みによって生計を立てていることは、若年者失業率が20%とも言われるベルギー社会を意識しているものと考えられる。

それから、車を運転している最中にソニアが、「子守唄に」と言って『美しき青きドナウ』をかけるシーンがある。
これについては、フランスの社会学ブルデューが『ディスタンクシオン』の中で述べている調査の結果を思い浮かべた。そこでは、支配階級では『平均律クラヴィーア曲集』や『左手のための協奏曲』を好む者が多く、中間階級では『ラプソディー・イン・ブルー』や『ハンガリー狂詩曲』を好む者が多く、庶民階級では『美しき青きドナウ』や『アルルの女』を好む者が多いというものだ。

つまり、単に若者であるというだけではなく、高い失業率にある社会で、かつ下層階級にある若者の問題としても考えなければいけないということ。



日本でも近年、格差構造が社会的に認知されるようになってきたし、「大人になることの困難さ」についても様々なことが言われてきているので、この映画が示唆するところは少なくないと思う。