広田照幸『陸軍将校の教育社会史―立身出世と天皇制』

陸軍将校の教育社会史―立身出世と天皇制

陸軍将校の教育社会史―立身出世と天皇制

戦前・戦時期の軍事エリートであった陸軍将校たちが、どのように天皇イデオロギーと関わりを持っていたかに焦点を当てた本。

天皇イデオロギーが陸軍将校たちを無制限に取り込んでいったという「自動内面化論」を著者は拒否し、実際には立身出世というホンネと矛盾しない形で、国家への貢献が目指されていたことを明らかにしている。そこでは、天皇制は規範や教義の体系としてではなく、一種の相互行為ゲーム、実践の体系をなしていたという。

以前、OBの先輩がこの本を大学院時代に読んだときに、「世界が変わるほどの衝撃を受けた」と言っていたが、確かにそれも頷ける。膨大な数の歴史資料を整理して、かつそれを教育社会学の枠組みにうまく当てはめているのがすごい。

ただ、「自動内面化論」を否定する著者が依拠しているのは、検閲を経ていない日記や、懐古的なインタビューであって、それによって本当の内面を明かしたことになるのか、という疑問が残った。著者は陸軍士官学校での「精神教育」は、結局は外に出る振る舞いによってしか判断することができなかったため、常に不十分であると見なされ続けた(=失敗であった)ということを言っている。それと同様の論理を当てはめると、本書で用いられているデータも書かれたものや、語られたものという外形的なものなので、それによって内面について分析していると言うことの限界はないのかな、と。