常見陽平『就活格差』

就活格差

就活格差

 [「内定取り消し」、「採用数激減」などの暗いニュースがメディアを賑わせた]これらの状況を見ると、就職氷河期が再来したかのように思えるが、そうではない。リクルートワークス研究所が発表した2010年度の大卒有効求人倍率は1.62倍で、2009年度の2.14倍からはたしかに大幅に減ったのだが、これは「売り手市場」の水準であって、就職氷河期と言われた時代の0.99倍〜1.3倍程度の求人倍率にはまだ達しておらず、全体の数字ではまだ氷河期ではないのである。
(中略)
 では、就活の現場では、いったい何が起こっているのか?
 今起こっているのは「就活格差」である。内定を取れる学生、企業が欲しがる学生はごく一定の学生に限られ、その学生たちを奪い合う時代になった。
(p.4)

久々にジャーナリストの書いた本を。

このリクルートワークスの大卒有効求人倍率や、あるいは業種別・企業規模別の求人倍率の数値(例えば従業員1000人以上の企業では求人倍率が高い、金融業では求人倍率が低いなど)を見ていると、少なくとも2010年度の大卒労働市場を全体としてみるとそこまで厳しいという気はせず、一部の企業に希望が集まり、そこで内定を取れる学生と取れない学生の分化が生じているというのは当たっている気がする。自分の身の回りでも、1人で5つも6つも内定を取る人もいれば、その逆もいるわけで、個人的な経験からもそれなりに納得はゆく。そういった意味で、問題の切り取り方はよい線行っていると思う。

ただ、第2章で「就活生の実態」として、学生のコミュニケーション能力の低下や、自己実現志向の高まりなどと言っているところは、根拠が薄く、事例としているものも採用担当者や大学のキャリアンセンター職員の声などを無批判に使っているという印象。

一方、企業の人事担当者の採用能力が低下しているため、求める人物像が画一化してしまっているという指摘は面白かった。また、具体的なアドバイスとして、「自己分析よりも業界研究に時間を割け」、「社会人と積極的に会う機会を作れ」、「有料のビジネス誌を定期購読せよ」などを挙げており、割とよいことを言っている。