ツルゲーネフ『はつ恋』

はつ恋 (新潮文庫)

はつ恋 (新潮文庫)

福山雅治の新曲ではなく。出張の帰りの飛行機でさくっと読了。


村上春樹の『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』の中で、

私はドストエフスキーの小説の人物には殆ど同情なんてしないのだが、ツルゲーネフの小説の人物にはすぐ同情してしまうのだ。
(文庫版上巻 p.276)

ということを作中の主人公が言っているのだが、何となくわかる。

ドストエフスキーの小説の登場人物は、およそ現実にはありえないような極端な性格の持ち主が多いのに対して、このツルゲーネフの小説の登場人物には、人間味が感じられる。まあ、例えば『カラマーゾフの兄弟』だと、無神論に取り憑かれて絶望している状態よりも、初恋に気も狂わんばかりになっている状態の方が、感情移入しやすいのは当然といえば当然か。
他にも、ドストエフスキーの長編とは違い、会話とは思えないような長大な台詞が出てこなかったり、農奴制やロシア正教の知識がなくても読み進められることもおそらく関係している。


ところでツルゲーネフはあえて深く語っていないが、主人公が令嬢へと熱烈な情熱を見せているのに対し、その令嬢と不倫をした自分の父親には怒ることもなく淡泊であったのはなぜなのか、しっくり来なかった。