川喜田二郎『発想法―創造性開発のために』

発想法―創造性開発のために (中公新書 (136))

発想法―創造性開発のために (中公新書 (136))

 このような[野外科学の方法が自覚的にとらえられていない]事態のなかで、科学者はおろか、現場を扱っている技術者でさえも、ときとして実験科学的方法で扱えそうな問題だけに自分の仕事の世界をかぎる。現場にいながら現場を逃避しているという姿もあろう。こういう人びとは、しばしば現場の資料それ自身をして語らせて、仮説、理論までもってくるのではなく、外国の学者の学説あるいは自分の思いついた仮説、あるいはなんとはなしにできあがったしきたりを心の中において、それだけで問題を処理しようとする。すでに存在している仮説を検証するのに役立つような野外のデータだけをつまみぐいする。その反面、現に眼のまえに歴然とある事実が見えないのである。またデータの処理を下から上まで正直に貫徹してやろうとしない。事実をして語らしめようとしない。
 仮説検証的な態度それ自体は悪いことではない。それはそれで、正しく使えば必須欠くべからざるものである。しかしここで問題にしているのは、つまみぐいの方法にもたれかかって、野外のすべての資料を使う能力もなく、その熱意もないというやりかたのことである。はじめから仮説ができていて、それを実証するデータをとるだけなら、その仮説以外の新しい発想は出てこないであろう。そこに現在までの現場的問題処理の欠陥があったと思う。
(pp.191-2)

奥付を見てみると、自分が買ったのは第85版。おそろしいほどのロングセラーだ。


野外科学の位置づけと、いわゆるKJ法の入門的な解説と、創造性の開発はいかにして可能か、ということが主な内容。KJ法はちょっとだけやったことはあるが、体系的な本を読むのは初めてだった。

先日、某先生に「理科系出身の人間は、数式の処理には長けているが、しばしば社会学的想像力が貧困であるので気をつけよ」と言われたので、野外科学的な方法論にも手を出してみようと思う。