川崎二三彦『児童虐待―現場からの提言』

児童虐待―現場からの提言 (岩波新書)

児童虐待―現場からの提言 (岩波新書)

ここ数日の日経新聞の社会面を見ていても、児童虐待の記事が2,3件あった。このように新聞によって取り上げられていること、あるいは本書に示されているような児童相談所が対応した虐待件数の増加を見ると、かつてはしつけや体罰として扱われてきた問題が虐待として認知されてきているということが実感できる。

しかし、そうした状況とは裏腹に、圧倒的に児童福祉士の人数が足りず、十分な対応ができていない実情が本書では訴えられている。やはり日本の福祉はこれまで企業と家族によって担われてきたのであり、児童虐待のように家族のセーフティ・ネットから漏れてしまった場合の福祉については、極めて貧困なものにとどまっているということが言える。


また、一時保護の決定について、司法による介入が児童虐待防止法の中には書かれておらず、「立ち入ることによる権利侵害」と「子どもの生命にかかわるという法益侵害」の調整が難しいという話が勉強になった。


それから、児童虐待が起きる原因として本書で4つの要素が述べられているのだが、その中の一つに親が社会的に孤立化し、援助者がいないことが挙げられている。
親が社会的に孤立化しているということは、社会の側から見ると虐待への理解が進まないという問題もあると思う。すなわち、虐待をしている親は常軌を逸した不可解な存在であるというレッテルが貼られ、ますます親が孤立化するというようなものである。
もちろん全ての児童虐待は、子どもの権利侵害という観点から許しがたいものではあるが、その背景には心理的・社会経済的な問題が少なからず存在しており、援助という観点も必要であることが本書では事例をもって示されている。特に第2章で出てくる母子世帯の話が印象的で、複雑に要素が絡み合って児童虐待が起きるということが示されており、読んでいて泣ける。