広田照幸『ヒューマニティーズ 教育学』

教育学 (ヒューマニティーズ)

教育学 (ヒューマニティーズ)

久々に教育学の本を。

読書会用に15分で書いた手抜きのレジュメを少しだけ変えて載せておく。


■本書の新しさは何か?
 教育学の歴史(ペスタロッチ、ヘルバルト、デューイなど)については、だいたいオーソドックスなことしか書かれていないし、ポストモダンが教育学に与えた影響についてもこれまで何度も言われてきたことだろう。では、本書の新しさとは何か? それらを平易に紹介したことと考えてよいのか?
 同じ岩波の『思考のフロンティア 教育』は社会学の基本概念である配分という観点からグローバル化時代の教育を構想するという新しい試みがなされていたが、本書はそこまでの新しさは特に見出されない。


■本書の戦略は成功しているか?
 岩波書店の「ヒューマニティーズ」シリーズがどのような意図・目的で発刊されているのか私は知らない。しかし、あくまで本書だけに着目してみれば、平易な文体で書かれていることやブックガイドが載っていることなどから、教育学を学ぼうとする人のための入門書として著者は位置づけているのだと思う。
 しかし、だとするならば本書のような内容は初学者にどのように響くのだろうか。教育学のオーソドックスな人物・思想紹介はよいとして、教育学が混迷状況に陥っているということをいきなり言われていても、面食らいはしないだろうか。なぜなら、本書5章でも言われているように「問題意識や関心がない本は、読もうとしても頭に入らない」(p.131)のであり、教育学の初学者がそのような問題意識を持ち合わせていることはあまり期待できそうもないことだからである。
 しかし、ではどのようなオルタナティヴな内容があり得るかと聞かれたとき、容易に答えられない。それこそが現在の教育学の抱える困難さなのかもしれないが…。


ポストモダンが教育の目的に与えた影響
 4章でポストモダンが与えた影響が扱われている。教育学者が教育の目的を語りえなくなった一方、「教育の目的の語り直しが教育学の外の人たちによってなされ」(p.116)たとして、財界人、エコノミスト、保守政治家や保守的評論家といった人たちを挙げ、それの人たちの皮相な教育観を批判している。しかし、もっとまともに教育への言及をなしている人たちもいる。というよりも、教育学以外の学問、例えば政治学(Esping-Andersen)、経済学(G. Becker)などでは近年ますます教育への注目がなされてきていると思う。
 教育学(+社会学?)以外の学問からすれば、今さらポストモダンなのか? という視点も多分にあり得るはずである。単に教育学が遅れているのか、それとも教育という営みがポストモダンの射程から抜け出すのが原理的に難しいのかは分からないが、他の視点からポストモダンを相対化する必要もあるのではないかとも思った。5章のブックガイドでも、他の学問分野の本を読む重要性が指摘されているわけであるし。


議論していて思ったのは、教育社会学者が教育学の本を書いたことに面白さがあるのかな、ということ。
自分にとっては「教育の不確実性」、「意図せざる結果」と言われても聞きなれた言葉にしか聞こえないが、教育学の入門段階の人では違った印象を受けるのかも。

ああしかし、少しは教育学も押さえておかないと。『エミール』くらいは最後まで読みとおしておきたい。