プラトン『メノン』

メノン (岩波文庫)

メノン (岩波文庫)

こういう問題に、あなたは答えられますか、ソクラテス。──人間の徳性というものは、はたして人に教えることのできるものであるか。それとも、それは教えられることはできずに、訓練によって身につけられるものであるか。それともまた、訓練しても学んでも得られるものではなくて、人間に徳がそなわるのは、生まれつきの素質、ないしはほかの何らかの仕方によるものなのか──。」
(p.9)


「徳は教えられうるか」というメノンが発する当時の流行の問いに対して、ソクラテスは「そもそも徳とは何であるか」という対話へと進めてゆく。

そして、徳とは何であるかを何もわかっていないという無知の自覚に至り、「知らないものをそもそもどのように探求することができるのか」という問い(いわゆるメノンのパラドックス)が出される。

それに対し、ソクラテスは想起説の立場から、魂は不死であり、これまでありとあらゆるものを見てきているのだから、想起すればよい。教えというものはなく、ただ想起があるだけだという考えを出す。

ゆえに、人は自分が知らないものがあれば探究をしなければならない。そして、まずなすべきことは徳とは何であるかを探究すべきだという結論が出される。

しかし、メノンはそれでは満足せず、徳とはいかなる仕方で身につくものであるかという最初の問いを再び発する。それに対して、ソクラテスは「もし徳が知であるならば教えられるはずだ」という仮設を置くことによって、暫定的な答えを出そうと試みる。



最後にソクラテスが徳とは「神の恵みによって備わるものだ」と言っているのは、メノンが無理に質問したことに答えているだけなのであって、この短編で最も重要なのは想起説(の萌芽)が見られることなのだと思った。