ジョージ・オーウェル『1984年』

一九八四年[新訳版] (ハヤカワepi文庫)

一九八四年[新訳版] (ハヤカワepi文庫)

正月に読み始めて、今さら読了。

ディストピアの設定としては、ハックスリーの『すばらしい新世界』の方が恐ろしい。そもそもオーウェルは1948年の時点で、1984年をディストピアに描いたわけで、冷戦も終わった今から見るとリアリティが薄れてしまっている部分もある。しかしながら、文学的な魅力は『1984年』の方が断然上に感じた。

その理由としては、ウィンストンとジュリアの恋愛によるところが大きい。「思考警察」の目を逃れながら会う二人が、ロマンティックな印象を与える。しかし、逮捕されて、拷問によって裏切ることを余儀なくさせられた後、再会しても最早何の思いも抱けないというのがとても哀しい。

また、当初は反共産主義の風刺本に読まれたそうだが、実際はそう単純には読み解けないというところも奥が深い。<ビッグ・ブラザー>が率いる党は全体主義的な特徴を体現しているし。また、党の信奉者でありながら、全くその素振りを見せずに反政府主義者に見せかけた、オブライエンが物語の複雑さを引き立てている。