盛田昭夫『学歴無用論』

学歴無用論 (朝日文庫)

学歴無用論 (朝日文庫)

著者の言う「学歴無用」とは学校教育が無用であるということではなく、入社試験・昇進の際に学歴を基準とするのはやめよう、というほどの意味。

日本企業の年功序列・学歴の偏重といった点が批判されているわけだが、アメリカでの様々な体験を交えて書かれているのが、面白かった。1966年という時点で、こうした批判をしていたのは、やはりすごいのではないか。


また「学歴無用論」、日本企業の経営論よりもさらに面白かったのは、ソニーの歴史。

 引き合いのひとつに、時計で名高いニューヨークのB社があった。B社は、「ぜひ欲しい。十万台註文しよう」という。十万台といえば、金額はわが社の資本金の数倍という、目のまわるようなものだった。しかし、話をすすめてみると、条件として、「B社のブランドをつけて売る」という。私は断った。当時のわが社の規模からすると、無謀とかわがままと言われても仕方のないやり方だっただろうが。私はひそかに「SONY」でなければ、と決意を固めていたのである。
 五十年かかって確立したこの有名ブランドを利用せずに、誰一人知らないソニーを押しとおすのは、いかに愚策かと強く主張する相手方に対して、私は、「五十年前には、貴社のブランドも、今のソニーと同様、誰一人知らなかったに違いない。わが社は将来のために、今や五十年の第一歩をふみ出すのだ。五十年後には、ソニーも貴社名同様必ず有名にしてみせる」と言い切って、ついにソニーは十万台の註文を自らの手で捨てたのであった。
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ブランドの確立ということの重要性を考えさせられる一節。