「社会科学研究所雇用システムワークショップ」


http://das.iss.u-tokyo.ac.jp/future/koyou.html

第5回雇用システムワークショップ
2010年9月2日(木)15:00〜17:00
「企業内紛争解決・予防と職場コミュニケーション」
山川隆一氏(慶應義塾大学法科大学院


■集団的労働紛争が減少する一方、個別労働紛争は増加しており、その解決のための制度の整備が求められている。

■行政レベルでは個別労働紛争解決促進法に基づく取り組みが行なわれたり、裁判所では労働審判の制度が導入されたりしている。

■その一方で、企業内における労働紛争の予防・解決システムの整備が課題である。企業内においてそれらの取り組みが行なわれるならば、外部機関に頼る場合よりもコストが少なく済む場合が多い。

■従来から、職場で不満を抱いた場合の主な相談相手は、上司であった。しかし、成果主義が進展する中、第一の評価者である場合の上司は相談できない場合がある。また、セクハラやパワハラの場合には上司が直接の紛争の相手となり得る。

■企業によっては、苦情処理手続きが定められていたり、相談窓口が設けられていたりする場合があるが、制度が公正に運用されるかどうかの保障がないという声が従業員からある。また、相談窓口担当者に労働法メンタルヘルスなどに関する専門知識や経験が不足しているという認識もある。

■利用しやすくコストもかからない企業内の紛争解決・予防システムが求められる。具体的には、(1)上司への相談のしくみを明確にし、相談者のプライバシーが確保され、不利益がないような保障をすること、(2)職場のラインとは独立して従業員の相談に応じるスタッフの制度(アメリカではオンブズパーソンと呼ばれる)を設けること、(3)現在の苦情処理委員会よりも小規模でインフォーマルな職場斡旋委員会のようなものを設けること、などが考えられる。

■企業内において、労働紛争を適切に解決・予防できるスキルを持った人材を養成することが求められる。最近では、「職場での人事管理の円滑化」という観点から、コミュニケーション・スキルの訓練が注目を集めているが、「労働紛争の解決・予防」という観点を中心とした訓練は普及していない。

■アメリカでは、紛争管理(conflict management)という用語が普及しており、労働紛争の解決・予防が人事管理の重要な役割として位置づけられている。日本においても、そのためのスキルを養成することが重要な課題である。