ミヒャエル・エンデ『モモ』

モモ (岩波少年文庫(127))

モモ (岩波少年文庫(127))

「時間どろぼう」が言葉巧みに人々から時間を盗んだことによって、人々は時間に追われて人間らしい生活を失っていったけれども、モモの力で時間が取り戻されて、みんな元の生活に戻ってめでたしめでたし、とメルヘンとしてそれだけで面白い。
しかし、現実の世界では「時間どろぼう」という悪者が存在しないにもかかわらず、この物語と同じことが現実に起きていると感じさせるのが、風刺としてよくできているところ。岩波少年文庫に入っているが、大人になってからでないとこういった要素は味わえない。

何かがおかしいと思っていても時間に追われる生活から抜け出せない、むしろ告発しようとする人間はベッポじいさんのように精神病院に送りこまれる、また時間泥棒たちが人間を騙す論理に一見もっともなところある、というあたりに時間に対する作者の深い洞察を感じる。