村上春樹『ノルウェイの森』(上)

ノルウェイの森 上 (講談社文庫)

ノルウェイの森 上 (講談社文庫)

高校1年の終り頃に、初めて読んだ村上春樹の作品。当時は今ほど読書習慣もなかったことや、様々な背景知識(例えば、大学におけるストなど)がなかったこともあり、あまり頭に入っていなかった。ちゃんと覚えていたのは永沢さんがすげえなということくらい。

そういう経緯もあって、この頃の村上春樹の作品では『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』の方が印象が強かったのだが、今回改めて読んでみてとても面白い作品だということに気づいた。


村上春樹の長編は何かしらの鬱屈を抱えた人間が少なからず出てくるが、他の作品では、本書の直子のように明確に精神疾患を抱えて療養所などの施設に入る人物は出てこないのではないかと思った。

地下鉄サリン事件の被害者へのインタビューをまとめたノンフィクションである『アンダーグラウンド』以降、村上春樹はそれまでのような社会に対する関わりを徹底的に拒否する人物を描く姿勢を変えたと言われる。この転向は基本的にはよかったことだと思うし、その転機にあたった『ねじまき鳥クロニクル』は村上春樹の長編の中では一番好きかもしれない。

ただ、上記の療養所のシーンなどを読むにつけ、この頃はこの頃なりに、単純に関わりを拒否するのではなく、自己や社会との折り合いのつけ方を村上春樹は探っていたのだということを何となく思った。