麻生誠『日本の学歴エリート』

日本の学歴エリート (講談社学術文庫)

日本の学歴エリート (講談社学術文庫)

タイトルから、エリートの概念史、あるいは日本の近代を支えた政治家・官僚の生い立ちの分析を予想していたら、内容は結構違っていた。明治期からの高等教育の設置形態、需給構造、カリキュラムの分析が多くを占めていた。

機能主義的な観点を意識して書かれているようなのだけれども、それであればなぜエリートが社会システムの維持に求められるのか、その機能的要件を詳述してほしかった。他の著作で書かれているから省略したのかもしれないが、高等教育の設置形態、需給構造、カリキュラムなどは割とマニアックな話なので、本書の内容は高等教育の歴史にかなり関心のある人でないと読み進めるのが辛くなっている。


興味深かった点としては、実学エリートへの注目。政治家や官僚のような国家の中枢を支える人材だけではなく、「機能集団におけるヒエラルヒー内のトップとしてのエリート」という観点は、今後の教育と社会の関係を考える上で示唆があるかもしれないと思った。

また、第3章「大卒就職の社会史」を読んでいて、1970年前後が一つの転機なのだと改めて理解した。
高等教育がマス化段階を迎えただけでなく、石油ショックによる不況、産業構造の変化が起きた。本書によれば、それまでは今よりも縁故やコネによる就職が多かったが、それだけでなく大学における学業成績が重視されていた。
先日読んだ竹内洋『学問の下流化』でも、1970年頃までは法学部卒なら企業の法務に、経済学部卒ならば経理にというように大学の学部と採用後の職務に対応が見られたことが指摘されていた(そのため、文学部や教育学部は民間企業での採用は少なく、マスコミくらいしか行けなかった)。