野村正實『雇用不安』

雇用不安 (岩波新書)

雇用不安 (岩波新書)

1998年の本で、ちょうど失業率が初めて4%を超えた年にあたる。戦後最悪の失業率と喧伝された中で、「それでもなぜ日本の失業率は欧米と比べると極めて低いのか」という問いを本書は立てる。

その問いに答えるために出される概念が、「全部雇用」。限界生産性よりも低い賃金で働く縁辺的な労働力(特にパートの女性)が多くいるという点で完全雇用とは異なるが、失業率は低く抑えるという雇用のあり方に焦点が当てられている。分析概念としてはとても明晰。


著者の考えとしては規制緩和を進めてゆくよりは、「全部雇用」を維持+それに伴う正規・非正規の待遇の差やジェンダーの不平等はを漸進的に改善してゆくのが望ましいとのこと。
2010年の状況に照らしてみると、失業率は5%強で欧米に比べると未だ低いが、縁辺的な労働は拡大した。これは著者が想定した「全部雇用」の維持とはまた違ったストーリーか。