作田啓一『価値の社会学』

価値の社会学

価値の社会学

第一編 社会的価値の理論
 1 行為の概念
 2 社会体系のモデル
 3 価値の制度化と内面化
 4 責任の進化
 5 アノミーの概念
 6 市民社会と大衆社会
第二編 日本社会の価値体系
 7 価値体系の戦前と戦後
 8 恥と羞恥
 9 同調の諸形態
 10 戦犯受刑者の死生観
 11 戦後日本におけるアメリカニゼイション
 12 日本人の連続観

第一編で分析される「価値」を定義した上で、それらと行為論・システム論の関連が位置づけられ、価値がどのように制度化・内面化されるか、また「普遍主義的かつ業績主義的な価値の内面化」によるアノミーの概念などが検討される。


第二編では戦後日本の価値体系の様々な側面が取り上げられる。
7章では、ベネディクトが提示した罪の文化恥の文化という類型を、理念的文化と制度的文化のそれぞれの優位と位置付ける。そして、ベネディクトの類型が静的な二分法であると批判し、理念的文化と制度的文化の(あるいは普遍主義と個別主義)の相互浸透という図式を、タテマエとホンネの関係に見出す。
また、戦後の価値体系の変動をデュルケームパーソンズの機能主義の図式に依拠しつつ、貢献・和合・業績・充足のそれぞれの価値のうち、戦後日本においては充足価値の著しい増大が生じたと論ずる。
また、8章ではベネディクトによる罪/恥の意識の他に「羞恥」という第三の意識が存在することが主張される。例えば、人が比較集団との関連において、自らが劣っているのではなく、むしろ優位であることに気づくことによって感ずるものが羞恥であるということを挙げる。そして、恥は所属集団の中での劣位の認知によって起こるものであり、羞恥は所属集団の視点のほかに、準拠集団の立場からも自己を見る際に生じるものであると述べられる。
10章では戦犯受刑者の遺書をもとに、死の意味づけが分析される。パーソンズなどを参照した普遍主義/個別主義と属性本位/業績本位の2×2軸に、「自然死」型(普遍主義かつ属性本位)、「いけにえ」型(個別主義かつ属性本位)、「いしずえ」型(個別主義かつ業績本位)、「贖罪」型(普遍主義かつ業績本位)という類型が対応させられる。
12章ではまず、西欧のキリスト教の中に、神に対する人間の絶対的な「非連続性」が見られ、これが人間の自律性と関わることが述べられる。そして日本の家族が戦後に至るまで、家父長家族を典型としていたため(すなわち親子関係の「連続性」が強く)主体性の弱い人間を生み出したことが分析される。また、通念とは異なり、日本の家族においては子への親の権威が弱く、外部(村落)からの自律性が弱かったことが指摘される。最後に、戦後の日本の家族の変化は、子どもの中に「非連続観」を植え付け、自律的な個人を生み出してゆく可能性について触れられる。