堂目卓生『アダム・スミス―『道徳感情論』と『国富論』の世界』

人々の私利の追求が、「見えざる手」によって導かれて、経済発展や望ましい財の分配をもたらす、という話で有名なスミスが、その背後にどのような人間観を前提としていたのかを、『道徳感情論』と『国富論』の解読を通じて示してゆくという内容。


前半の『道徳感情論』の解読では、スミスがばらばらに独立した人間を前提としたのではなく、他者の視線を気にし、他者から「同感」を得ようとする「社会的」な人間を考えていたことが示される。そして、この「同感」を基にして、人々は自らの心の中に「公平な観察者」を発達させ、「公平な観察者」を判断の基準とすることで、社会秩序が導かれるという。


後半の『国富論』を扱うパートでは、「公平な観察者」の監視の下、市場で個々人がフェアプレイで取引を行ってゆくことで、経済発展が導かれるというスミスの考え方が解説される。また、その発展は「自然」なもの、すなわち農業→製造業→貿易というプロセスでなければならず、実際に西欧で起きた重商主義による経済発展は、これと逆行したプロセスであったとスミスが考えていたことが示される。


他にも当時の社会背景(イギリスにおける貧困の増大、アメリカの独立戦争)の下、スミスが幸福とは何か、望ましい国際秩序とは何かを考えていたかなど、興味深い内容が多かった。