カート・ヴォネガット・ジュニア『ローズウォーターさん、あなたに神のお恵みを』

莫大な相続財産を、貧しい人たちに分け与える慈善家の話。


主人公エリオット・ローズウォーターは戦争中に負った心の傷が原因で、恵まれない人々に慈善行為を行うようになる。
しかしそうした行動により、貧しさは怠惰から来るものだという信念を持つ父親の信頼を失い、妻は精神異常を来たしてしまう。

父はエリオットの行動をアルコール中毒のせいにし、医者は精神病のせいだと言う。また、財産の管理に関わる弁護士は、アイヴィー・リーグの大学1年生がよくかかる症状なのだと言う。また、そこにつけ込みエリオットの財産を奪おうとする者も出てくる。

しかし、大人の世界では馬鹿げたことと捉えられるエリオットの行動こそ、むしろ真に人間的なものではないか、という問題提起を著者はしている。

ドストエフスキーの『白痴』の主人公を慈善家にした感じと言えるかもしれない。著者の人間に対するシニカルかつヒューマニスティックな心情が溢れる作品である。