大瀧雅之『平成不況の本質―雇用と金融から考える』

平成不況の本質――雇用と金融から考える (岩波新書)

平成不況の本質――雇用と金融から考える (岩波新書)

「すなわち、失業こそが所得分配の不公正を招く最大の原因である」[9]という記述でいきなり躓く。失業給付の水準によってはそうとは限らないのでは…という。新書だから仕方が無いのかもしれないが、論理の飛躍が感じられる部分が多くて気になった。


「より長期的な視野から観察すると、この50年間で日本経済が経験しているのは、デフレではなく、顕著なディスインフレなのである。さらに、前述の2つの定義で注意すべきは、ディスインフレ・デフレとも、物価水準に関する現象をさしているのであって、景気の善し悪しとは直接無関係なことである。」[33]


国民経済計算における名目企業所得と企業の正味資産において、前者では90年代を通して上昇しているが、後者は金融部門・非金融部門を問わず減少している。これは、前者には評価損益(資本利得・損失)が含まれていないことによる。[39]


「インフレは金融機関(主として銀行)の債務圧縮には、たいそう貢献するのである。」[41]


大手銀行が与信業務から撤退し、取引決済業務に専念すべきという考えを「ナローバンキング論」と言う。[43]


「表から読み取れるのは、「バブル期」と「構造改革期」には、対外直接投資が大きく伸びていることである。殊に「構造改革期」は6.1兆円と企業の設備投資(固定資本形成)の約8.5パーセントも占めている。この財務省による対外直接投資のデータは届け出ベースであるから、実際の値はこれを大分上回ることが予想される。」[64]


「市場取引の最も大きな特徴は「匿名性」(anonimity)である。労働市場における匿名性とは見方を変えれば、個人の努力・勤勉性を観察できないことでもある。」[106]

「組織すなわち企業では、市場取引とは違い、匿名性が剥落する。」[108]


「つまり銀行は、預金という安全資産を貸し出しという危険資産に変換しているのである。したがって、銀行は単なる資金の仲介をする証券会社とは異なり、自らリスクを負うことになるから、慎重な行動が必要とされるのである。これが直接金融と間接金融の違いである。」[121]


「現在分離課税になっている証券からの所得を、所得税の課税ベースに算入し、一刻も早く富裕層・高額所得者を対象とした証券優遇税制をやめること(分離課税率を2014年に現行の10パーセントから20パーセントに引き上げることをもって「証券優遇税制」の撤廃と言われることもあるが、筆者はまったくこれにくみしない)。」[180]