『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年

登場人物の教養の高さや洗練された趣味、独特な会話のやりとり、多用されるメタファーなどはいつもの村上春樹作品という感じです。一方で、しばしば無国籍的と評されがちなこれまでの村上作品とは異なり、本作では名古屋という土地が非常に重要な意味を持っています。また、色のついた名字が重要な役割(あるいはメタファーを)担っているという意味で、日本語ならではの味わいもあると思いました。


特に初期の村上作品を読む時は、登場人物の内面の描写や、対話の小気味よさに注目することが多かったのですが、本作ではどちらかというと主人公のつくるがどのような状況に置かれ、何に向き合っているのかというようなことを意識しながら読んでいた気がします。エルサレム賞の受賞スピーチにおける著者の言葉を用いれば、「卵と壁」の壁の方ということになります。