D.A.ハーヴィル(伊理正夫訳)『統計のための行列代数 上』はじめに

統計のための行列代数 上

統計のための行列代数 上

 本書は行列代数についての伝統的な本と異なる多くの特徴をもっている.それはまた,Searle(1982)やGraybill(1983)やBasilevsky(1983)の本のような,その(統計学的)位置付けを同じくする行列代数の本とも重要な幾つかの点で異なっている.まず本書では実数行列(すなわち,その要素が実数である行列)に対象を限っている――複素行列(すなわち,その要素が複素数である行列)は一般には統計学的応用には現れないし,これらを除外すると用語や記号や結果が簡単になるからである.

 手元にある齋藤正彦『線型代数入門』では、第2章で、複素共役行列、エルミート行列、ユニタリ行列が出てくるので、これに比べるとたしかに実数に限ることで簡単になっていると感じます。

 本書は一般逆行列の幅広い議論を特徴としており,線形系の解や行列の階数のような標準の議論の中で一般逆行列を頻繁に使っている.固有値固有ベクトルの議論は本書の最後から1つ前の章まで延ばしてある.私は線形統計モデルを教えるのに固有値固有ベクトルの結果を用いる必要がないことに気づいたし,そしてどんな場合でも,より基礎的な行列の結果を証明するのに固有値固有ベクトルに関する結果を用いることは感覚的に不愉快であると考える.

 主成分分析のように、固有値分解が中心になる手法もあるので、この取り扱いでよいということにも少し驚きました。