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Judea Pearl(黒木学訳)『統計的因果推論―モデル・推論・推測』第3章「因果ダイアグラムと因果効果の識別可能条件」

メモ


3.7.3 「強い意味での無視可能性」の解明
 潜在反応アプローチのパラダイムを扱っている研究者は,「バイアスが0である」や「交絡がない」といった条件を表現するために,「強い意味での無視可能性」(Rosenbaum and Rubin 1983)とよばれる独立性を好んで使っている.形式的に, Xを二値の治療変数(または行動)とするとき,強い意味で無視可能であるという条件は
 ({Y(0),Y(1) \perp X|Z})  (3.64)
と書ける.ここに, Y(0) Y(1)はそれぞれ行動 do(X=0) do(X=1)の下での(観測できない)潜在反応であり(定義については(3.51)を参照), Zは観測された共変量の集合である.「強い意味で無視可能」であるとき, Zは許容的であり,(3.54)式で導出したように,治療効果は調整された推定量を使ってバイアスなく推定することができる. 
 その導出過程からわかるように,強い意味での無視可能性は,反事実の公式を操作しやすくするための統語論的ツールというだけではなく, Zを検証しなくても許容的であると形式的に仮定できる便利な方法である.しかし,本書で繰り返し述べたように, Y(0) Y(1)は観測できず,科学的知識は反事実に関する条件付き独立関係を信頼をもって判断できるような形式で蓄積されないため,それを実際の現場でどのように適用したらよいのかについてほとんどの人はわからない.それゆえ,「強い意味での無視可能性」はもっぱら「 Zが許容的」,すなわち,
 P(y|do(x))=\sum_{z}P(y|x,z)P(z) (3.65)
であるという仮定の代替物であり,不適切な Zを選択しないような基準としては,ほとんど利用することができない.
 バックドア基準は許容性基準を満たすため,グラフィカル・モデルを学んだ読者なら(3.64)式がバックドア基準(定義3.3.1)と一致していることがすぐわかるであろう.この認識により,主張あるいは仮定として(3.64)式が与えられるだけでなく,(3.64)式が有効となる因果関係も推測することができる.

 Judea Pearlのグラフィカル・モデルはMorgan and Winship(2007)にて,その存在を知りました.考え方としては重要だと思いつつも,新奇な概念(例えば、上の引用にも出てくるdoオペレータ)が多く,また実際にどのように利用したらよいのかが難しそうで,今まで腰を据えて勉強してきませんでした(一応,Winship and Harding(2008)のように,実証研究に明示的に取り入れられているものもありますが,少し強い仮定が必要になるという印象でした).星野(2009)においても,グラフィカル・モデルは変数間の関係がわかっている工学などの一部の分野を除いては,現実的な応用についてはネガティヴなことが書かれていたような気がします.
 とはいえ,読んで理解すれば因果推論に関しての見通しは間違いなくよくなるだろうという感覚はあったので,少しずつ読み進めています.別のことを調べていてたまたま,こちらのブログにおける,「傾向スコアとはバックドアに蓋をする合成変数である」という理解の仕方を目にしたのですが,なるほどという思いです.Pearlの本では,上の箇所が関連するのではないかと思いました.Rubinらの潜在反応モデルでは,なぜ反実仮想的な状態が実現するのかや,仮想的な介入が行われるのかについてのセレクション・メカニズムを記述しないということが,Heckman(2005)では批判されており,Pearlの本を読むことで,この点についての理解も深められるのではないかと考えています.