トム・アット・ザ・ファーム

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 久々に渋谷アップリンクへ.カナダ映画です.モントリオールの広告代理店で働くトムは,交通事故で死亡した同性の恋人ギョームの葬式に出席するため,ギョームの実家である田舎の農場へ向かうシーンから始まります.そこで,ギョームの母親アガットと,兄フランシスに会うことになるのですが,ギョームに同性の恋人がいたことはアガットには知らされておらず,単に友人として振る舞うよう,トムはフランシスに強要されます.トムは葬式の場で用意していた弔辞を読むことができず,母アガットに対する埋め合わせをするようにとフランシスに命令されます.そこで一度はそれを無視して,農場から帰ろうとするのですが,おそらくは恋人に対する罪悪感から,農場へと引き返します.
 しかし,真実を隠して架空の恋人の存在をアガットの前で話し続けることに我慢がならず,トムはすべてを伝えて帰ろうとします.そこでフランシスに暴力を振るわれ,しだいに彼に対する服従と依存関係におかれるようになります.それまでなんとも思っていなかったさびれた農場にたいして,「自分がこの農場に残って牛たちの世話をみなければ」とトムの心情が移り変わってゆく様子は,狂気を感じさせるつくりとなっています.
 兄フランシスの暴力から逃れようとするシーンや,なぜかトムとフランシスがタンゴを踊ることになるシーンの奇妙な官能性や,架空の恋人の存在を信じているため事態がうまくつかめず,最後には叫びだしてしまう母アガットの存在など,ストーリー全体を通して緊張感が途切れることがありません.これが弱冠25歳の監督(兼主演)の手によるものというのが驚きです.