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Jacoby (1979) "The Origins of Internal Labor Markets in Japan"

論文

Jacoby, Sanford. "The Origins of Internal Labor Markets in Japan." Industrial Relations 18: 184-96. 

  著者は、戦後の日本の労使関係研究が行ってきた、日本の内部労働市場の起源についての説明を、2つに分類しています。1つはAbbeglenやLevineなどに代表されるように、日本社会の固有性を強調するものです。そこでは、日本の制度は歴史的に継続性があるとみなされ、年功賃金に基づいた雇用システムは、こうした新たな企業組織の下での、雇用主が労働者の忠誠心を引き出すための装置として見ることができるといいます。封建的なイエ社会における商人における拡張家族関係が、雇用主と労働者の関係との共通していると見なされます。終身雇用とは封建的な商家の近代的な代替物であり、「パターナリズム」の名のもとにそうした実践が行われているというのがAbbeglenの説明です。これに対して、Levineの説明は、非継続性や変化により注意を払っているものの、やはりかつてから続くパターナリズムが想定されていると著者は指摘します。
 日本社会の個別主義的な見方に対して、批判者たちは終身雇用は昔から存在してきたわけではないことを、離職率について戦前の限られたデータから明らかにしてきました。著者は、批判者の関心が制度変化や社会的な対立についての原因に向けられなかったのは興味深いとしつつも、個別主義的な理論の正しさを疑うには十分な証拠を出していると評価しています。
 もう一方で、特殊的な人的資本に注目を行う経済理論があり、Beckerの議論を発展させたものとして、DoeringerとPioreの説明が表れました。Beckerは、どの企業でも役立つ技能と、特定の企業においてのみ役に立つ技能を分類しました。しかし、ある企業においてのみ役に立つ技能というのは、曖昧な概念です。DoeringerとPioreは、それぞれの工場における機械や装置の特異性、あるいは労働者のチームで培われた経験といった概念を用いることで、企業特殊的な技能というものをより明確にしました。
 著者は、内部労働市場が日本において形成され始めた時期に、機械や技術が企業特殊的になったとはいえないと反論をします。20世紀の初めには機械を用いた大量生産を行う産業が現れていたものの、同時に資本財を生産する産業も日米に生まれていたために、同じ機械を導入することができたはずだというのが、その理由です。また、企業特殊的な技能に基づく説明については、訓練との関係についてさらに疑念が向けられます。というのは、企業特殊的な技能と訓練が雇用主にとって重要になり始めた時期というのは、同時に熟練労働者を不要とするような技術が導入され始めた時期でもあるからです。企業特殊的な技能が新たな技術の下で要請されるようになったとしても、それは雇用主にとっての新たな訓練のコストも生むので、内部労働市場が構築されたことを必ずしも正当化しないと主張されます。
 このように2つの説明を問題視した上で、著者は年功賃金に基づいた雇用システムは、当初は大企業のホワイトカラーと熟練労働者に限って成立したと見るべきだといいます。これを成立させた要因として、(1)伝統的な形態の熟練労働者の組織から官僚的な管理への変化、(2)資本集約的な寡占企業の登場(二重構造の形成)、という2つの相互に関連した現象が挙げられます。
 19世紀に産業化が進む中で、熟練労働者の移動率が高いことに雇用主は頭を悩ませていました。産業化の初期においては、雇用主は熟練労働者の供給を、親方に依存しなければならないという状況がありました。親方は採用、訓練、賃金の支払いについての権限を自らもっていました。熟練労働者にとって賃金を上昇させるほとんど唯一の方法は、親方を頻繁に変えることであり、そのために彼らは高い移動率を示していました。
 労働者の安定性した供給を確保するために、親方の力を弱めるための試みが、一次部門から行われるようになりました。後発的な経済発展と、国家の政策という2つの要因によって、企業は規模によって二極化するようになります。特に財閥という寡占企業が発達することになりました。親方を排除することは段階的に行われました。まず、親方は監督代行者として、企業から直接雇われた監督の下で管理されることになりました。このためには、月給制など多くのインセンティヴが用いられたといいます。こうして、かつては複数の企業に渡っていた親方の力が、1つの企業にしか及ばなくなります。すなわち、親方が持つ交渉力が弱まります。これに伴い、熟練労働者が雇用主を変えることも難しくなったといいます。
 訓練が企業に内部化されるにともない、労働者の忠誠心を高めるために雇用主が導入したのが年功賃金に基づいた雇用システムだと著者は見ています。これが当初は熟練労働者に限定されたことについて、著者はいくつか理由を挙げています。ひとつには、絶対的な訓練費用が高くついたためです。また、年功システムは、そこに含まれる労働者が固定費用として含まれるので、その財源を捻出を目的として、低技能の労働者の供給によって調整する必要があったためだといいます。