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Blossfeld (1992) "Is the German Dual System a Model for a Modern Vocational Training System?"

Blossfeld, Hans-Peter. 1992. "Is the German Dual System a Model for a Modern Vocational Training System?" International Journal of Comparative Sociology 33:168-81.

  職業の構造変化が起きている中で、どのような職業訓練システムが有効なのかという問いが掲げられ、ドイツのデュアルシステムを参照点としながら議論が行われている論文です。
 はじめに著者は、Goldthorpeを引用し、アメリカおよび西ヨーロッパの国々に次のような共通なトレンドが見られるとしています。(1)マニュアルおよび生産的な仕事から、ノンマニュアルのサービスおよび管理的な仕事への移行、(2)マニュアル的な仕事の減少は半熟練・非熟練の仕事でより起きており、熟練の仕事は相対的に減っていないこと。(3)ノンマニュアルの仕事の増加は、高技能の仕事で相対的に増えていること。
 著者はこうした職業構造の変化が5つの問題を引き起こすとしています。(1)世代的な柔軟性の問題:職業構造の大きな変化は、新たな世代が労働市場に入り、上の世代が労働市場から退出して起こるために、どのようにして職業訓練システムが新たな入職者を新しい職業に柔軟に導くことができるかという問題。(2)個人の柔軟性の問題:職業構造の急速な変化は多くの仕事の寿命を縮めるために、職業訓練システムが特定の技能や能力だけではなく、一般的な認知スキル・社会的スキルを促進できるか、職業生活を通じてのさらなる教育に対するレディネスを促進できるかどうかという問題。(3)構造的な柔軟性の問題:職業訓練は仕事と職業能力の社会的な割り当てという側面があるために、個人に対して狭い分野の仕事に制限をするのか、それとも幅広い仕事に門を開いておくのかという問題。(4)階層的な柔軟性の問題:職業とは地位という次元も持っているために、どのような職業訓練システムがさらなるキャリアの機会の基礎を提供しているくれるかという問題。(5)訓練の柔軟性の問題:職業構造の変化によって、訓練によって資格を得ていない労働者の仕事は減少するために、訓練システムは非熟練の人々が後になってから訓練を受ける機会を提供してくれるかどうかという問題。これらをまとめると、より柔軟な職業訓練のシステムほど、労働市場の新規入職者に対して、複雑に変化する職業構造にうまく対処することを可能にするとしています。
 次に著者は、異なる国々の職業訓練システムを比較します。国によって、職業訓練は一般学校(general school)、職業学校、訓練所、デュアルシステム、職場でのOJTなど、様々な形態で組織されています。例えば、フランスでは職業教育の大部分は一般的な学校で行われており、一方でデンマークやドイツなどでは、一般教育と職業教育は明確に区別されており、徒弟制によるデュアルシステムが訓練の主な形態だといいます。また、オランダ、ルクセンブルク、ベルギー、スウェーデンでは職業訓練は職業学校で行われ、イタリア、イギリス、アイルランド、アメリカでは職場でのOJTを通じて職業資格を得るのが一般的であるということです。
 著者はこれらの異なる国々について包括的な記述を行うのは不可能だと認めつつ、いくつかの次元を区別しています。(1)職業訓練における学校と職場の関連性、(2)職業訓練の標準化、(3)職業訓練の階層性です。
 まず、職業訓練における学校と職場の関連性についてです。職業訓練は、理論的な学習と実践的な仕事経験をどのように組み合わせるかという区別が可能だと著者はいいます。この次元における一方の極には、一般学校や職業学校において、訓練を受ける人々が理論的な教育のみを受けるというものがあります。もう一方の極には、職場において実際の問題のみを扱う純粋なOJTがあります。これら2つの極の間に様々な学校とOJTの組み合わせがあります。例えば主には学校で行われる訓練と企業での実習が組み合わされるという、オランダの技術中等教育や、企業での訓練とパートタイムの職業学校を組み合わせるという、ドイツのデュアルシステムが挙げられています。
 職業訓練は、一方では実際の職場で役に立つ学習を与えなければならず、また一方では変化する職業構造に対応するために、個人の柔軟性を高めるものである必要があります。こうした矛盾する要請を考慮すると、学校のみ・職場のみというどちらか一方だけの訓練は、現代的な職業訓練システムの基礎とはなりえないと著者は主張します。ドイツのデュアルシステムは、主には企業で行われる実践的な訓練が重視されているものの、学校で行われる職業訓練も強化されているとされています。
 次に、職業訓練の標準化という次元についてです。これは職業訓練が共通の基準で行われているかどうか、仕事へのアクセスが訓練を受けたという証明に基づいているかどうかというものです。一方では、ドイツのように訓練が標準化されており、かつ訓練を受けたことの証書が特定の仕事につくための要件となる国があり、もう一方ではアメリカ、イギリス、イタリアのように規制のないOJTが行われ、また誰が教えるのかや何を教えるのかについての一般的なガイドラインが存在しない国があります。この2つの極の間に様々な組み合わせがあり、フランスでは職業訓練プログラムが一般学校に統合されており標準化の程度が高いものの、学校の後に職場で行われる訓練については標準化の程度が低く、具体的な訓練の証明のされ方についても存在していないということです。訓練の証明メカニズムが存在することで、雇用主は労働者の採用を判断する上での有用な指標として用いることができます。また、労働者側も雇用主と集合的・個人的に交渉を行う上での参照点として用いることができます。一方で、職業構造の変化によって、構造的な柔軟性がより必要となり、社会的に決められた狭い分野にとどまらない労働者が必要とされます。
 職業訓練の標準化という次元についても、最適な訓練システムは2つの極の間にあるはずだとされています。ドイツのデュアルシステムは、この点においてもよいモデルになりえるとされています。その理由のひとつは、職業訓練システムが国家のみによって決められているのではなく、国家、雇用主、労働者の間での複雑なコーディネーションのプロセスの結果として生まれているかだらといいます。
 そして、職業訓練の階層性という次元についてです。職業訓練は、非熟練・半熟練労働者と、訓練を受けた熟練労働者を区別し、また訓練を受けた労働者に対して仕事の階梯を登る機会を与えるという、階層的な観点から区別が可能だということです。これも一方の極には、労働者の間に熟練の程度によって障壁がなく、キャリアの見込みはそれぞれの企業におけるOJTに依存するという、アメリカ、イギリス、イタリアのような国があります。もう一方の極には、デュアルシステムによって、訓練を受けた人々とそうでない人々に明確に仕事の機会の差が存在する、ドイツのような国があります。これらの極の間には、仕事の経験年数によってマニュアル労働者の熟練度の区別が行われる、フランスのような国があるということです。
 著者は、職業構造の変化が起き、非熟練の仕事が減少している中では、職業訓練システムが次の要素を持つべきだとしています。(1)ライフコース全体にわたって、職業訓練を受ける機会があること。(2)技能の証明と結びついた形で、キャリアの階梯を上がってゆけるような機会を設けること。
 階層性という面で、デュアルシステムは職業生活の後期においても訓練の証明を受けられるように改善されるべきだといいます。また、著者は教育拡大にも注目をしています。高いレベルの仕事につくために大学の学位を獲得することの必要性が高まり、デュアルシステムによる職業教育は脅威にさらされるようになったといいます。よって、デュアルシステムは変化する教育システムに再統合され、かつ実践志向のキャリアパスとして若年者を再び動機づけられるようにならなければないと締めくくられています。