ドナル・オシア(糸川洋訳)『ポアンカレ予想』

 

ポアンカレ予想 (新潮文庫)

ポアンカレ予想 (新潮文庫)

 

第1章 二〇〇三年四月、ケンブリッジ
第2章 地球の形
第3章 あり得る世界の形
第4章 宇宙の形
第5章 ユークリッドの幾何学
第6章 非ユークリッド幾何学
第7章 リーマンの教授資格取得講演
第8章 リーマンの遺産
第9章 クラインとポアンカレ
第10章 ポアンカレの位相幾何学の論文
第11章 ポアンカレの遺産
第12章 ポアンカレ予想が根づくまで
第13章 高次元での解決
第14章 新ミレニアムを飾る証明
第15章 二〇〇六年八月、マドリード

 過去一世紀にわたって、幾多の人々が3-多様体の理解を深めることに生涯を費やしてきた。だが、腹立たしいことに、あらゆる労力を注ぎ込んでも、もっとも簡単な問いに対する答えを出すことができなかった。「これらのあらゆる3-多様体の中に、すべてのループが一点に縮まるという性質を持ちながら、3-球面でないものがあるだろうか」というのがその問いだ。もし、そのような多様体がないとすれば、完全なアトラスを使って、すべての閉じたループを一点に縮められるかどうかをチェックすることによって、私たちの住む宇宙が3-球面かどうかを確信を持って断言できる。ポアンカレ予想では、そのような多様体はないと言っている。肯定形の文章を使って正式に言えば、ポアンカレ予想とは、「多様体上のあらゆる閉じたループを一点に縮めることのできるすべてのコンパクトな3-多様体は3-球面と位相的に同じ(つまり同相)である」という主張だ。 

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  2007年に出た翻訳の文庫版です。著者のドナル・オシアは、Ideals, Varieties, and Algorithmsの共著者の一人なのですね。

 ポアンカレ予想の提出と証明を中心に、ギリシャからの数学の歴史をたどりながら一般向けに書かれています。本文では数式や難解な説明は極力排されていますが、その分だけ注で詳しい説明や原典の紹介がされており、数学に精通している人でも楽しめる内容になっているようです(自分には原典にあたるだけの能力はもちろんありませんが)。

 特に興味深かったのは、6-8章の非ユークリッド幾何学の展開に関するところでした。『原論』における平行線公準についての議論から、それが成り立たない幾何学を導入した際どのようなことが起こるのか、初めて知ったことが多かったです。二次元多様体における曲率について、三角形の内角の和が180度からどれだけずれているかで定義できるという説明がわかりやすく感じました。