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Weeden and Grusky (2014) "Inequality and Market Failure"

Weeden, Kim A. and David B. Grusky. 2014. "Inequality and Market Failure." American Behavioral Scientist 58:473-91. 

  アメリカを典型とする自由市場経済(liberal market economies: LMEs)における不平等の拡大について、レント(rent)概念からのアプローチを試みる理論的な論文です。

 通常、自由市場経済では完全競争の実現度合いが高いと見なされ、人々の間に生まれる不平等は、人的資本の差異から生まれるものであると説明されます。特に不平等のトレンド、すなわち近年の拡大傾向については、技術変化によって高技能の労働者への需要が拡大したということが注目されます。いわゆるskill-biased technological changeの理論です。

 著者たちはSBTCの理論は不平等の拡大を完全に説明するわけではないと主張し、レントに注目した説明が試みられます。レントとは、通常用いられるように、ある資産(asset)からのリターンが、完全競争市場において生み出されるリターンよりも上回ることであると定義されます。この定義より、レントは(a)資産への需要が供給を超過する場合、あるいは(b)資産の供給が制限されている場合によって発生します。供給が制限されているとは、需要が供給を超過した際の価格の上昇に対して、労働が反応できないということを例えば意味します。現代の労働市場では、レントは最低賃金や、組合の定めた賃金にともなうプレミアムなどの形態をとるとされます。

 著者たちは、制度に注目した際に自由市場経済においてもこうしたレントの崩壊が、分布の下位における賃金の低下を説明すると主張します。さらに、著者たちの独自性が高いのは、分布の上位におけるさらなる賃金の上昇について、新たなレントの生成が起きているという視点です。

 著者たちがレントを生成させる制度的な要因として具体的に注目しているのは、(1)職業的な閉鎖(occupational closure)、(2)大学教育における供給サイドの制約(大学教育に向けて十分に準備されていない貧困家庭の生徒や、大学の供給を抑える行政的なルール)、(3)レントの分配に関する資本家の権力の増大(労働組合の減退、国際的な資本移動)、(4)経営者へのレントの増大(プリンシパル-エージェント問題に伴うものだけではなく、職業的な閉鎖に伴うものが重要)といったものです。

 それほど長くない論文ということもあり、必ずしもすべての議論について十分な根拠が与えられているとは思いませんでした。しかし、Aage B. Sørensenの2000年の論文以来、社会階層論でも重要と見なされているレントに基づく不平等の議論を、さらに一歩進めようとしている野心的な論文だと感じました。