Miles(2015)"The (Re)genesis of Values: Examining the Importance of Values for Action"

Miles, Andrew. 2015. "The (Re)genesis of Values: Examining the Importance of Values for Action." American Sociological Review 80:680-704.

 本論文では、価値(values)が行為(action)に与える影響について検討されています。価値と行為の関係性は重要であるにもかかわらず、社会学ではあまり検討されていない問題であると著者は述べています。そしてこの理由について、社会学においては価値は、いまだにパーソンズ的な構造機能主義を思い起こさせることが理由ではないかと推測しています。

 パーソンズ的な構造機能主義の問題点として著者が挙げているのは、社会が限られた数の中核的な価値をその成員に埋め込み、これらは人々が思考と行為を組織する上での共通の志向をもたらすと想定していることです。人々は内面化された共通価値にしたがって合理的に行為し、社会は安定するということが強調されます。しかし、実際には人々は様々な対立する価値を持っており、これが葛藤(conflict)を引き起こすという批判が行われてきました。さらには、内面化された価値が人々を行為するように強制するという見方も、例えばDennis Wrongによって、「過剰な社会化(oversocialization)」であるとして否定されてきました。

 しかし、著者は近年の研究の発展によって価値と行為の関係はより適切に扱えるようになっていると主張しています。その有力なモデルの1つとして、dual-processモデルというものが挙げられています。この基本的な考え方は、人々の認知には2種類のものがあり、1つは相対的に無意識かつ迅速に働き、もう1つはゆっくりとした熟考的なものだといいます。多くの場合、人間の行為は前者の無意識のプロセスによっているものの、困難な状況を扱う場合や、事後的な理由づけ(post hoc accounts)を行う場合には、後者の熟考的なプロセスが働くということです。

 dual-processモデルは、人々が行為をする上で、構造を強調しすぎる理論と、意志を強調しすぎる理論の問題をうまく解決していると著者は評価しています。一方で、このモデルはプロセスに注目する一方で、内容(content)への注目が不十分であると問題を述べます。すなわち、行為を動機づける上でどの価値がより重要であるかを説明していないということです。

 データによる検証では、21の項目から自己超越(self-transcendence)と保守性(conservation)という2つの尺度が構成されています。まず、様々な国々が含まれたデータにおいて、上記の価値と、政治、宗教などの領域における行為との関連が示されています。また、国ごとの文脈というものも重視されており、具体的には個人の自由スコア(personal freedom score)が高い国において、より価値と行為の正の関連は強いということが表れています。

 また、リアルタイムの行為との関連ということも検証されており、dictator gameにおける行為に与えている価値の影響が分析されています。

 データ分析の部分は社会心理学や実験経済学など研究もフォローしていないと難しい印象をうけました。しかし、傾向スコアや固定効果モデルを用いた分析もされていたところなどは非常に興味深いです。

 もう少しこうした分野は深く勉強してみたいのですが、どうやらSteven HitlinとShalom H. Schwarzという人たちの研究はかなり重要なようなので、その辺りから入ってみようと思います。