Kahneman (2003) "A Perspective on Judgement and Choice: Mapping Bounded Rationality"

Kahneman, Daniel. 2003. "A Perspective on Judgement and Choice: Mapping Bounded Rationality." American Psychologist 58:697-720.

 Daniel Kahnemanのノーベル賞受賞講演をもとにした論文です。

 

・プロスペクト理論の中心的なアイディアについて、value functionは絶対水準よりも、むしろ基準点からの利得と損失によって決まるということ(そして損失回避的であること)、が強調されています。こうしたアイディアはBernoulliまで遡れるとのこと。効用が絶対水準ではなく、現在からの変化によって決まるという考えは社会調査でも実証的に重要である気がするのですが、どれくらい検証されているのでしょうか。

・フレーミング効果が示すものは、古典的な合理的個人の仮定に疑問を投げかけるものであるということは知っていました。それが具体的には、Arrowの不可能性定理における条件のひとつである、「選好の無関係対象からの独立性」が成り立っていないことだという点について、新たに学びました。

・2つの関連する概念から一連の研究が位置づけられています。ひとつは、accessibilityで、どういった思考が真っ先にに浮かびやすいかを示すものです。例として、いくつかの立方体を積み上げている図では、合計の高さということをイメージしやすいのに対して、同じ立方体を平面に並べた場合にはその占める面積がイメージしやすいということが挙げられています。

・もうひとつは、直感(intuition)と熟考(deliberation)による認知システムの区別で、それぞれSystem1とSystem2と名づけられています。直感が熟考によってどれだけ修正される可能性があるかを考えることで、プロスペクト理論、フレーミング効果、属性代用(attritubte substitution)で示される結果を説明することができるとされています。すなわち、System1が生み出すaccesibilityの高いイメージが、私たちの判断や選好に影響しており、これらはSystem2による熟考によって修正されない限りは変わらないということです。

・heuristicsは計算機科学でも使われる概念のようですが、定訳はないのでしょうか。