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Korpi and Palme (2003) "New Politics and Class Politics in the Context of Austerity and Globalization: Welfare State Regress in 18 Countries"

論文

Korpi, Walter and Joakim Palme. 2003. "New Politics and Class Politics in the Context of Austerity and Globalization: Welfare State Regress in 18 Countries, 1975-95." American Political Science Review 97: 425-46.

 およそ5年前に研究会で発表した際の資料を、ほぼそのまま載せてみます。今読んでみると、訳が不自然な箇所がかなりありますね。少しは成長したということなのでしょうか。

 

 

概要

 社会経済的な階級と、階級に結びついた政党が政策決定へいかに関連しているのかは、社会科学において繰り返されてきた問題である。“new politics”論では、現在の緊縮財政(austerity)の時代においては、階級に基づいた政党は、ポスト産業化の力から生まれる支出抑制(retrenchment)の圧力に対して抵抗することができるような、強力な利害集団にとって代わられるとされる。この論文では、支出抑制の分析は次のような対立として有意義な分析ができることが議論される。すなわち、戦後初期の完全雇用の福祉国家に基づいた社会契約の再編成を含む分配上の対立、言いかえれば党派政治と福祉国家の制度が問題となる対立としてである。既存研究における従属変数の概念化と測定の問題を指摘し、社会的市民権(social citizenship rights)の支出抑制の程度についての新たなデータを用いて、社会権の長期的な拡大が減少に転じてきたこと、いくつかの国では大幅な(significant)支出抑制が起きたことが示される。分析の結果から、憲法上の拒否点(constitutional veto points)、経済的要因、グローバル化などを考慮した後にも、党派政治は支出抑制に対して有意な影響を持っていることが明らかになった。

 

背景

 半世紀以上にわたって、西洋の民主主義国家における社会経済的な階級と階級政治の政策決定への関連が議論されてきた。第二次世界大戦後の数十年間には、社会科学者がイデオロギーの終焉と労働者階級のブルジョア化を主張することで、階級と階級政治の役割は衰退したとされる。しかし、そうした主張は理論的にも実証的にも階級の重要性を主張する研究者たちによって反証されてきた。福祉国家研究においては、権力資源論が階級の役割を見ることが有意義であることを主張してきた。
 しかし、1990年代になると階級と階級に結びついた政党の役割は再び衰退した。Piersonは権力資源論が福祉国家の拡大に有意義な分析であったのに対して、1970年代半ばからの支出抑制を説明できないと論じてきた。これは支出抑制が、拡大とは異なったプロセスであり、”new politics”を反映しているからだという。new politics論では支出抑制を引き起こす力は、ポスト産業化の進行によるものだと理解されており、新たな利害集団が関わるものとされている。
 new politics論の主張に対し、この論文では支出抑制の局面においても、配分上の対立における社会経済的階級の役割に焦点を当てた権力資源論が有効であることを示す。

 

福祉国家と階級

 福祉国家の比較研究では、その従属変数となる福祉国家を、GDPに占める社会支出の割合を指標として用いてきた(Wilensky)。しかし、これが不十分であることは誰しもが認めるところである。
 権力資源論では、アクターが配分上の対立に動員する権力に注目がなされる。権力資源論は、福祉国家を「不平等と貧困を削減するために市場における分配の結果に影響を与えようとする政策」という観点から概念化する。
 この文脈では、社会保険制度と社会サービスは市場における分配の結果を変えるものであり、T.H. Marshallが社会的市民権と呼んだものの、主要な一部をなす。そして、市場における分配を修正しようとする場合、労働市場における人々の配分の過程に影響を与えようとする政策が重要となる。これより、失業が2つの意味で重要になる。賃金曲線に見られるように、失業が多ければ賃金の水準は低くなる傾向があるし、また失業それ自体が部分的に配分上の対立の結果と見なせるからである。
 支出抑制の分析において、失業率は主要な指標となる。この論文では、失業率が社会的市民権における支出抑制において、内生的なリスク要因となっていることを議論する。

 

雇い主、失業、緊縮財政

 権力資源論は、雇い主がその利害から完全雇用に関心があると想定している。この論文では、失業率が上昇したことが、政府の財政バランスに影響したという想定を置く。
 ポスト産業化の諸要因(製造業からサービス業への移行に伴うGDP成長率の鈍化、政府の社会的コミットメントの拡大、老齢人口の拡大、公的サービスセクターへの女性就業者の増加)が政府の財政バランスに長期的に影響するというPiersonの主張には同意できるが、ここで分析しようとしている1975-95年の政府の収支の不均衡は、失業率の上昇と密接に関連しているのである。緊縮財政は支出の抑制に対して、相当程度において外生要因ではなく内生要因となっている。

 

ネガティヴィティ・バイアス、福祉国家の制度、駆動力

 new politics論では、老齢年金受給者などの新たな利害集団が出現したことを強調するが、最も重要な潜在的アクターは、リスク回避的な市民であることに注意するべきである。
 国ごとの違いを説明する際には、福祉国家の類型を用いることが有益である。ここでは、KorpiとPalmeによる社会保険の制度類型を用いる(targeted model, state corporatist model, basic security model, encompassing model)。
 支出抑制を引き起こす駆動力として、失業率、政府の財政バランス、憲法上の拒否点、などを変数として導入する。

 

社会的市民権の指標化計画

 支出抑制の研究の新たな基礎として、主要な社会保険における社会的市民権の削減を考慮する。データとして、Social Citizenship Indicator Programを用いる。

 

社会権の支出抑制の輪郭

 生産労働者の平均賃金水準に対する純代替率を計算する。純代替率の水準は、単身世帯と4人世帯(一人の稼ぎ手、その配偶者、小さい子ども2人)の2種類の世帯と、短期(待機期間の初めの週)と長期(給付を受ける半年と通常の収入がある半年)の2種類の期間から評価される。
 初めに1930-95年における疾病保険、労災保険、失業保険の平均純代替率を見る(Figure1左図)。18カ国の平均を取ると、3つの保険は同じような時系列的な変化をしている。しかし、その代替率の水準は異なっている。これは部分的に社会経済的階級の利害を反映したものであり、失業保険、労災保険、疾病保険の順に代替率は高くなる。
 しかし、このFigure1の左図は国ごとの分散を見えなくしている。イギリスを見ると(Figure1右図)、戦後にベヴァリッジ型の福祉国家が導入されて、それぞれの保険の代替率は大きく上昇したが、その後1979年にサッチャー政権が誕生すると、1995年にはそれぞれ戦前の代替率かそれ以下になってしまっている。
 以降で用いるデータは、3つの保険制度について、1975、1980、1985、1990、1995の5時点、18カ国を観察したデータである。因果分析のために、支出抑制を次の3つの異なった指標により捉える。(1)3つの保険制度のそれぞれについて、1975-90年における代替率のピークを経験し、その後1995年までに支出削減があった。(2)3つの保険制度のそれぞれについて、2つの連続した観察時点において支出削減が見られた。(3)5年ごとの期間において、3つの保険制度のうち少なくとも一つにおいて支出削減が見られた。この(3)の指標はイベントヒストリー分析において用いられる。
 Table1は、(1)の指標を用いて、国や社会保険制度の類型ごとに、3つの保険制度のピークからの最も大きな落ち込みを表わしている。平均すると、basic securityモデルの国々おいて、最も大きな減少が見られる。state corporatistモデルはかなり違ったパターンを示しており、失業保険では大きな減少が見られる国もあるが、疾病保険と労災保険では減少は小さいか、全く見られない。encompassingモデルの国々では、スウェーデンとフィンランドではやや大きい減少が見られるが、ノルウェーでは失業保険で少し減少が見られるにすぎない。
 次に、(2)の指標を用いる。ここでは政治的な決定の結果と見られる支出削減を捉えたいが、データとして用いている給付の純代替率は、賃金・賃金にかかる税金・測定誤差を含んでいる。また小さな変化は政治的決定の結果として見ることは難しい。よって、給付の純代替率において少なくとも10%の減少をしたものだけに限定する。この方法により、1975年から95年までの5時点、18カ国において、37の大きな支出削減が見られた。これを様々な独立変数のカテゴリーによって分類したのがTable2のAである。ヨーロッパだけでも、18カ国全体でも、失業率が高いと支出削減のリスクも大きいことが分かる。
 社会保険制度の類型ごとでは、basic securityの場合が最も削減のリスクが高く、次にencompassing、state corporatistの順となっている。targetedモデルであるオーストラリアは、1975年から疾病保険と失業保険の給付水準は下がっているが、ここで定義される大きな削減とはならない。また、憲法上の拒否点に関しては、拒否点がない国においては最も支出削減のリスクが大きいことが分かる。ただし、拒否点の水準が高い国と中間程度の国のリスクの差はそれほど大きくない。
 グローバル化と外部経済の圧力に関しては、資本収支(capital account)の規制緩和と経常収支の規制緩和が低いほど、支出削減のリスクは低かった。また、GDPに占める輸出入の割合が低い国においては、支出削減のリスクは低かった。
 new politics論における重要な仮説である、支出削減は伝統的な党派政治と無関係であるということを検証するために、削減のリスクと、内閣における政党を左派政党・宗派(confessional)政党・世俗保守中道(secular conservative-centrist)政党の3つに分け、その関係を調べた。その結果、左派政党による政府では最も削減のリスクが小さく、世俗中道保守では最もリスクが大きく、宗派政党ではその中間であった。
 ここでは純代替率の削減を10%ポイントという絶対的な水準で定義しているので、統計的には初期の時点で給付の水準が高かった場合により大きな削減が見られやすい。また、「成長の限界」(growth to limits)仮説によれば、初期の給付水準が高かった国では、より削減が見られやすいことが期待できる。しかし、実際には18カ国の集計では、最も削減のリスクが高かったのは初期の給付水準が最も低かった国においてであった。「成長の限界」仮説は支持されなかった。
 次に、社会保険制度の類型と、政党の交互作用を検証する(Table2のB)。すると、制度の類型とは無関係に、左派政党では最も支出削減のリスクが低かった。また、3つの政党のカテゴリーそれぞれにおいてでは、state corporatistが最も支出削減のリスクが低かった。
 最後に(3)の指標を用いて、イベントヒストリー分析を行う。18カ国全体でも、ヨーロッパだけでも失業率は純代替率の削減に対して正に有意な影響を持っている(Table3のA)。社会保険制度の類型は、三値変数(state corporatist、encompassing、その他)として投入したところ、予想した通り純代替率の削減に対して負の効果であった。すなわち、state corporatistモデルが最も純代替率の削減リスクが低く、次にencompassingモデルのリスクが低かった。ただし、有意なのはヨーロッパ13カ国に限定した場合のみである。拒否点は負の符号だが、有意ではない。資本収支の規制緩和は18カ国において負の効果、経常収支の規制緩和は正の効果であったが、効果は小さく有意でもない。輸出入の割合は18カ国全体では正に有意であった。初期の給付水準は有意ではなく、また予想とは逆に負の符号である。左派政党は予想した通り、負の符号をとっており、18カ国全体でも、ヨーロッパだけでも有意であった。
 左派政党による政府と失業率を同時に投入すると、左派政党の効果は負、失業率の効果は正であり、18カ国全体ではどちらも有意であった。

 

考察

 失業率の水準は、分配上の対立の結果と、社会保険の支出削減のリスクの両方において重要であった。
 3つの社会保険制度の大きな削減ということに注目することで、それらの長期の漸次的拡大は1970年代に止まっただけではなく、減少に向かった。また、これは単純な「成長の限界」とは解釈できない。なぜならば、初期の給付水準が低い国において大きな削減が起きる傾向があったからである。
 グローバル化やポスト産業化は、分配上の対立における多くのパラメータに影響を与えている。しかし、new politicsの主張とは異なり、党派政治は社会保険制度の大きな削減に影響を与えている。
 経済的要因については、政府の財政バランスと失業率は関連しているが、党派政治の影響を消すほどではない。予算の制約は失業率と密接に関係している。よって、社会保険制度の支出削減において、緊縮財政はかなりの程度において内生的な要因ではないかと考えられる。
 給付の受給者について言えば、new politics論はリスク回避的な市民による政策への反応を過大視している。これらの人々にとって社会保険制度への主な関心はリスクを避けることなのである。権力資源論では、福祉国家の制度がリスク回避的な市民の利害を構造化することを指摘し、また国ごとの構造的な違いを説明することができる。
 state corporatistモデルでは、社会保険制度は職業ごとに分離しており、それぞれのカテゴリーでは利害が同質的な人々が含まれやすい。それゆえに、支出削減の局面においてフランスや、ドイツ、イタリアなどではデモやストライキを通じて抵抗した。
 一方、encompassingモデルでは、異質な人々が同じ社会保険制度の中に含まれている。それゆえに、state corporatistモデルのようには、支出削減に対して抵抗することができなかったのである。
 社会移動の比較研究においては、社会経済的階級間の安定した移動率が見られる。さらに、物質的な生活水準は上昇してきているにしても、人々の間の相対的な位置が重要な意味を持つ。ポストマテリアリズムの主張とは異なり、労働市場における分配上の対立は多くの人々にとって今でも主要な関心なのである。