『海よりもまだ深く』

 

 http://gaga.ne.jp/umiyorimo/

 池袋シネマ・ロサで観てきました。

 

 「大人になれない大人」というテーマは、これまでの是枝映画においても何度も描かれてきたテーマの一つです。しかし、これまではあくまで「機能不全の家族」の一つの要素として扱われてきたという印象です。またすでにそこにあるものとして、なぜ「大人になれない大人」がいるのかということ自体はあまり問われてこなかったかもしれません。本作では、阿部寛が演じる主人公の子ども時代からの過程を追うことによって、深く掘り下げられた主題となっています。

 これまでの是枝映画とくらべて、固有名詞の使用が多いと感じます。たとえば、「カルピス」であったり、「モスバーガー」、「ミズノの野球スパイク」などであったりです。こうした手法によって、「西武線の清瀬団地」というローカルさ、すなわち「固有名詞とは切り離せない人々や社会」がより浮き彫りになっています。

 そして、すでに是枝監督の映画にはなくてはならない存在になっていますが、今回も樹木希林の演技がすばらしいとしか言いようがありません。夫をすでに亡くし、この団地で生涯を終えるであろう境遇の女性ですが(しかも冒頭では別の部屋で孤独死が最近あったことが話題になっている)、悲哀というよりもむしろ、力強くユーモアに満ちた姿を見事に演じています。