『帰ってきたヒトラー』

 

http://gaga.ne.jp/hitlerisback/

 

 原作の小説が面白いと同僚に教えてもらっていて、気になっていた作品です。なかなか時間が取れず、そろそろ上映が終わってしまうかなと思っていたのですが、池袋シネマ・ロサで新たに公開が始まっていました。

 実際のニュース映像にくわえて、ドイツの各地でゲリラ的に撮影した映像が用いられています。「道端を歩いている人々の前に、ヒトラーが突然現れたらどのような反応が起きるのか」を問うた、実験的な手法とも言えます(ある映画情報サイトでは、「セミドキュメンタリー」という表現が用いられていました)。しかも、人々からは好意的な反応がかなり見られるという結果です。

 さらに、劇中劇というスタイルが採られることで、現実とフィクションの区別がつかなくなってゆくような、奇妙な感覚に陥りました。一方で、認知症を患っており、それまでは問いかけにも答えなかったユダヤ人のお婆さんが、「みんな最初は笑っていた」と鬼気迫る様子でヒトラーにまくしたてるシーンにおいては、突如として(歴史的な)現実に引き戻されました。非常にタブーの多い領域にもかかわらず、なんとも絶妙なバランスの上に成り立っている作品だという感想です。

 原作は一人称のスタイルで書かれているようなのですが、映像化されることで、周囲の人々がどのようにヒトラーを受容してゆくのかという、外部的な視点がより描かれるようになったのかもしれません。そして、観客自身もこの作品が問うているテーマに、より向き合わせられることになっているのではないかと、推測します。