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Hong (2014) "Trends and Determinants of Social Expenditure in Korea, Japan, and Taiwan"

論文

Hong, Ijin. 2014. "Trends and Determinants of Social Expenditure in Korea, Japan, and Taiwan." Social Policy and Administration 48: 647-65.

 

 来月の研究会用に読んでいます。分析は正直うーん…というところもありますが、研究の蓄積がない分野でとりあえずデータをできる限り集めて、考えられる仮説を検証してみたということの意義はある感じでしょうか。バックグラウンドの部分はあまり自分に知識がないので、かなり勉強になりました。

 

 

  • 西洋諸国における福祉国家の発展に関する研究は、1960年代にはじまり、理論・方法論の両面において、その背後にある論理の幅広い理解を可能にしてきた。
  • 理論的な観点からは、初期の研究(Wilensky 1975)においては、近代化と経済発展が支出拡大の主な要因と主張された。このような見方は後に、収斂アプローチと呼ばれるようになった。くわえて、国ごとの政治と制度の違いが関係していることが、ますます強調されるようになっている。一方では、過去の政治決定が、その後の政策の展開を制約することが主張されている(経路依存の論理)。また、福祉へのコミットメントの度合いを解釈する上で、 政治的な交渉と妥協を生み出す原因となる、労働組合や左派政党における組織的な利害を強調する研究もある(権力資源アプローチ)。1970年代初期の石油ショックをはじめとして、近代化と権力資源による説明は、グローバリゼーションによる外的なプレッシャー、経済危機、脱工業化などの別の理論によって修正を迫れられている。
  • 方法論的な観点からは、西洋ヨーロッパ諸国における比較政治経済研究は、データの妥当性と比較可能性をどのようにして増すかに注意を向けてきた。初期の例としては、O'Connor and Brym(1988)が、「福祉国家の規模('welfare effort')」とは何か、すなわち従属変数は何であるのかを、特定する必要性を述べたことが挙げられる。
  • アジアにおいては福祉国家が拡大し、西洋においてはグローバリゼーションと福祉の削減がすでに大きな議論となっている時期に、東アジアにおける社会政策研究は始まった。 研究の動向としては、Esping-Andersenの分類を補完するような、第4の東アジアの福祉レジームは存在するのかどうかが、議論される傾向がある。しかし、単一の事例(しばしば編著の形式)であることが多い。
  • 理論的には、東アジア諸国における福祉の発展の起源と特徴を理解する上で、ある程度の進歩が見られる。孝行の徳のように、家族の価値を強調する儒教の文化的影響は、現実の特徴というよりも、政府が残余的な福祉国家を維持するための、政治的なレトリック装置であると理解されている。同様にして、かつてにおける福祉の提供は、普遍的な社会権への関心ではなく、健康的で質の高い労働力を維持するための、権威主義的なレジームの道具であったという理解が受け入れられている。しかしながら、これらの国々を単一のカテゴリーにくくってしまうことに意味があるのかどうかは、結論が得られていない。
  • 比較可能なデータの欠如がまた、方法論上の大きな制限になっているように思われる。国際機関による二次データはいくつかあるものの、これらは主に記述的な統計量として用いられてきた。
  • この論文は、韓国、日本、台湾の3ヶ国について、データによる比較を通じて、理論的な理解を試みるものである。

 

東アジアの福祉国家を定義する

  • 大まかに言って、東アジアの福祉の特徴は、以下のように述べられる。

 

  1. 国家の経済発展が優先事項であり、社会政策は健康で生産的な労働力を商品化する手助けをするためのものとして理解されている。
  2. 福祉ミックスにおいて、家族と私的セクターの関与が大きく、公的支出は小さい。
  3. 西洋諸国と比べた場合に、近代化の初期において、福祉の始まりが遅かった。
  4. 社会政策の発展がトップダウン型であり、権威主義的な政府が正当性を求める上では、公務員のような利害集団が政治的に重要だと見なされる。
  5. 植民地の経験が、政策の普及のメカニズムに影響している。
  6. 女性をターゲットとした社会サービスが軽視されている。

 

  • 包括的な東アジアの福祉レジームは見つかっていないものの、その中の下位グループを特定している研究はいくつかある。もっとも知られているのは、イギリスの植民地であった香港・シンガポール、および日本の植民地であった台湾・韓国である。
  • この研究の焦点となるのは、日本、韓国、台湾である。この中でも、特に韓国と台湾は共通性を有している。福祉の支出規模の小ささ、社会政策の時間的な推移、民主化にともない近年になって福祉の問題が重要性を増したことなどである。これ以外にも3つの国は、似たところがあり、特にビスマルク的な社会保険システムが挙げられる。福祉国家の発現時期を表す基準として暫定的に用いられている、GDPに占める3%の支出という閾値は、1980年には3ヶ国すべてが超えている。特に重要なこととして、福祉の重要性が増していた2000年代には、3ヶ国すべてで政治的な変化が起きた。

 

東アジアの社会支出の動向:比較の視点

  • 3ヶ国における社会支出の推移についての説明は、それぞれの国ごとの事例分析に限定されてきた。OECDの社会支出データベース(SOCX)は、比較研究で広く使われているものの、分析に使われるのは日本だけである。これはおそらく、韓国の支出水準が低いためだろう。韓国がOECDに加入したのは1996年であるため、時系列データとしては近年に限定されてきた。しかし、SOCSの近年のアップデートにより、1990年から2009年までカバーされるようになった。台湾はOECDの加盟国ではないため、財政部(Ministry of Finance)のウェブサイトより、1988年から2011年のデータを入手した。台湾の従属変数は、「GDPに占める社会支出」に、「年金及び遺族給付への支出」をくわえ、その年のGDPで割ったものである。これらのデータによって社会支出の推移を示したのが、図1である。
  • 日本と韓国では、1990年代から着実な上昇傾向が見られ、2008年の経済危機の後は安定化しているように見える。台湾は、支出の水準は全般的に韓国と似ているものの、より安定したパターンを維持している。
  • これは、3ヶ国を同じ分類に含めることはできないことを意味しているのだろうか。Castles(2007)が描いた、西洋諸国における推移の比較が、より広い視点を得る上で有用である。
  • 表1において顕著であるのは、すべての福祉国家において福祉の削減が起きていると述べる根拠は、ほとんどないという事実である。オランダとニュージーランドのみにおいて、大きな削減を行っていることが目立っている。残りの先進産業国では、全般的な支出は増加している。東アジアの国々おいては、1990年から2009年の間に社会支出の水準が大きく増加したと述べることは可能である。しかし、南ヨーロッパの国々では、1990年から2009年、1999年から2009年のどちらをとっても、より大きな拡大が起きている。これはおそらく、社会人口学的な推移の効果と、社会的な必要が増大したためであろう。変動係数の減少は、国家間の差異が次第に小さくなっていることを示す。よってこの点からは、収斂仮説がある程度に支持される。この記述的なデータから明らかになったのは、東アジア諸国は支出の規模が小さく(主に韓国と台湾)、福祉へのコミットメントが年を追って増加していることによって、他の産業国にくらべて外れ値とはなくなっているということである。

 

東アジアの社会支出の規定要因:文献レビュー

  • Lin(1991)は台湾において、軍事支出や労働組合支出の変数とともに、近代化理論の検証を行った。近代化理論に関係する変数である、「人口にしめる都市労働者の比率」のみが、福祉支出に正の影響を持っていた。Kim and Jung(2003)は韓国において、グローバリゼーションと権力資源の変数とともに、近代化理論の検証を行った。しかし、従属変数である社会支出の合計が2つのデータセットに分かれているため、整合した結果として得られているのは、65歳以上の人口比率という、文脈的な変数の正の効果のみである。Ahn and Baek(2008)は韓国について、複数のデータ(国家統計とSOCX)によって、権力資源、制度、フェミニスト理論、マルクス主義理論に関わる多くの独立変数を用いたものの、すでに検証されている近代化理論以上のものは得られなかった。この結果から、韓国の福祉国家は未だ初期の段階にあり、福祉支出は経済成長と近代化の自然な結果として、もっとも説明されるのだと結論づけられている。より近年のAhn and Lee(2012)の研究においても、経済成長と産業化のみが、韓国における社会支出の拡大を有意に説明する要因であった。
  • 国際機関から得られた二次データによって、比較研究も行われている。Park(2007)は、階級的な連立政治は東アジアにおいて、西洋の福祉国家ほど関連を持っていないと推測している。しかしながら、選挙における対立は、分析上の有用な視点になりうることも、主張されている。くわえて、グローバリゼーションと1997年の経済危機の効果は、それほど明確ではないとされている。Croissant(2004)が二次データの分析結果を解釈するところによると、東アジアの福祉国家は支出の規模が小さく、教育と、私的支出、家族へと焦点をより当てている。興味深いことに、Croissantは韓国、台湾、タイは1997年以降に、福祉国家の規模拡大へのプレッシャーをより受けるようになっている。これは人口学的、経済的、政治的な動向(高齢化、年金システムの成熟、社会保険システムの拡大)によって、西洋的なモデルの道に従うように強いられているためだという。

 

仮説とデータ

  • 「福祉へのコミットメント」を表す上で、GDPに占める公的社会支出を用いることには、批判がありうる。しかし、3ヶ国における比較研究が存在しない現時点では、これは必要な措置である。3ヶ国について、1988年から2012年をカバーする、最新の二次データを収集した。
  • 近代化理論に基づく伝統的な説明を超える規定要因を特定するのが難しいため、ここでは様々な理論を検証する。

 

  • H1. 福祉への必要が増大するにつれて、社会支出の規模も拡大する。
  • H2. 近代化の水準が高さは、福祉支出に正に寄与する。
  • H3. 国家の行政能力の高さは、福祉支出の拡大をもたらす。
  • H4. 民主化の水準の高さは、福祉のコミットメントの高さにつながる。
  • H5a. 政府における中道-左派の議席は、正または負のいずれかに社会支出を変化させる
  • H5b. 政府における中道-左派の議席は、社会支出に正に影響する
  • H6a. グローバル市場への参加の拡大は、福祉支出に負に影響する。
  • H6b. グローバルな財政危機は、福祉支出に正に影響する。

 

  • 仮説1-4は、機能主義的な見方とある程度に関連している。すなわち、経済成長と近代化は、社会支出の拡大をもたらすというものである。計量分析による先行研究では、有意な結果が確認されているのは、これらの変数のみである。
  • 仮説1の社会的な必要は、労働力人口における失業者の比率で表される。
  • 仮説2の伝統的な近代化理論は、「GDPの年成長率」と「総労働人口に占める農業従事者の比率」を指標として検証される。
  • 仮説3と4は国家の建設と、政治的民主化に関わる説明を試みるものである。前者はGDPに占める政府最終消費の比率、後者はPolity IV計画による民主化の指標によって測られる。
  • 仮説5aと5bは、権力資源論を表している。イデオロギー的な理由によって、左派政党の議席が増えるほど、社会支出も拡大するというのは率直である。しかし、政治指導者の志向が支出にどう影響するかは、予測がより難しい。社会支出が拡大する縮小するかによって、独立変数は異なる解釈がなされなければならない。中道-左派の政府は、より福祉にコミットメントするように投資を強いられることもあるし、福祉の削減を行う際には、より正当性を有していると感じるかもしれない。右派/左派の区分は、アジアの政治的な文脈では非常に困難である。たとえば、韓国と台湾には共産党が存在しない。全般的に言って、革新政党はヨーロッパの福祉国家拡大期とくらべた際に、労働者の保護へのコミットメントが弱い。よって分析では、世界銀行のDPIを、より中道左派の方向へと解釈に修正した。そうでなければ、これら3ヶ国において左派政党を見つけるのは困難である。
  • 最後に、GDPに占める貿易の変数によって、グローバリゼーションを考慮する。また、1998年から2002年と、2008年から2011年について、「1」をとる経済危機の変数を含める。経済危機は福祉支出を拡大させると予想される。というのも、社会的な問題を悪化させ、GDPの水準を低下させるためである。

 

方法と結果

  • 固定効果を入れたパネルデータ分析を行う。プールすることによって、「国×年」が分析単位になり、Nが小さいという問題に対処することができる。
  •  y_{it}= ( \beta_{1}+\mu_{i}+\lambda_{t} ) +\sum_{k=2}^{k} x_{kit}+e_{it}
  •  \beta_{1}は切片、 \mu_{i}は国の効果、 \lambda_{t}は時点の効果を表す。固定効果モデルでは、 \mu_{i} \lambda_{t}は固定されたものとして扱われる。
  • データの構造上、多重共線性の問題に弱くなるため、まず予備的な分析によって独立変数の相関を確認した。予想したとおり、多くの変数で統計的に有意な相関があった。特に、「民主化」と「貿易」の変数は、他のいくつかの変数と共線性の問題を有していた。相関を考慮した結果、いくつかの変数を残した3つのモデルを採用した。第1のモデルは、「政府支出」、「左派の政治指導者」、「左派政党の議席比率」、「危機」の変数を含む。第2のモデルは、「農業就業者」、「失業」の変数を含む。第3のモデルは、「貿易」の効果のみを含むものである。それぞれのモデルは、Wooldridgeの検定により、一次の自己相関の有無を検証した。モデル3では自己相関がないという帰無仮説が棄却されたため、Cochrane-Orcutt推定を行った。分析の結果は表3である。
  • 統計的に有意な変数は少ないものの、因果の方向性としては期待された通りとなっている。失業に関する仮説1については、正の係数であるが、統計的に有意ではない。仮説2について、農業就業者の減少は社会支出の増加を予測しており、近代化理論と整合的である。国家財政の増加は正の影響を持っており、仮説3も支持される。民主化の度合いは短期での変化が小さく、時間によって不変となりやすいために、仮説4は検証できなかった。権力資源論を反映した仮説5aと5bは、期待されたとおりの向きではあるものの、左派政党の議席は10%水準での有意性であった。しかし、これは興味深い知見であり、おそらく世界銀行のDPIデータとは異なった値の割り当てを行ったことによるものである。グローバリゼーション(仮説6a)は、有意な結果ではなかったが、経済危機(仮説6b)は有意な結果である。全体的に言って、モデル1は決定係数とBICの観点から、もっともデータを説明している。モデルは不安定性であり、多重共線性の問題は残っている。

 

結論と考察

  • 東アジアの国々は過去20年間に社会支出の拡大を経験したものの、地中海の国々ほど大きなものではなかった。パネルデータ分析の結果、福祉の発展における近代化理論の重要性が確認された。あわせて、政府の財政能力の役割と、経済危機の効果も認められた。議会における左派政党の比率は、小さな効果であるように見える。ただし、効果がないという帰無仮説を5%水準では棄却することはできない。「左派政党」の異なる操作化を試みることによって、指標の改善の可能性が示されたので、左派政党の効果に関する結果は有望であると思われる。おそらくもっとも大きな貢献は、利用可能な二次データの比較を通じて、推測統計を用いたことである。 これは、東アジアの福祉研究では長らく行われてこなかった。
  • 台湾政府が近年採用している異なった計算方法により、台湾の社会支出データには何らかの歪みがあるかもしれない。すでに述べたように公的社会支出を用いることには限界があるので、東アジアにおける研究においても、「従属変数の問題」についての議論を将来は避けることはできない。
  • より体系的な研究を、理論的な観点から行う必要がある。この研究の結果からは、西洋の産業国とくらべて、福祉の規定要因は異なっていないように見える。しかし、東アジアにおける相対的に低い福祉支出と、相対的に遅い増加速度を考慮すると、Croissant(2004)が主張する西洋ヨーロッパ諸国との収斂仮説は、支持されるとは言い難い。
  • 将来の方向性としては、左派/右派のイデオロギーと政策課題が政党ごとにどのように形成されているのかという研究がありうる。というのも、ヨーロッパの福祉拡大の時期とくらべた際に、労働運動が政治に対して影響を持ったとは言いがたいためである。