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Bornmann (2008) "Scientific Peer Review: An Analysis of the Peer Review Process from the Perspective of Sociology of Science Theories"

論文

Bornmann, Lutz. 2008. "Scientific Peer Review: An Analysis of the Peer Review Process from the Perspective of Sociology of Science Theories." Journal of the Sociology of Self-Knowledge 6: 23-38. 

 

 論文のピアレビューについての実証研究は色々とあるものの、理論的・体系的な研究がないという問題意識が掲げられた論文です。「科学理論の社会学」の観点が必要であるとし、(1)北部アメリカ学派、(2)社会構築主義、(3)社会システム理論という3つの見方が提示されています。

 社会システム理論の箇所はやや訳が怖いところではあります。D1の時に社会学理論の教科書の輪読に参加させていただいていた際に、Kさんが、「Luhmannの回になると、コメントが少なくなりますね」と仰られていたのを思い出します。少しは定訳をあたっておくべきかもしれませんが、面倒くさいので結局はフィーリングの訳で済ませています。

 

1.北部アメリカ学派

  • 「科学のエートス」として、Merton(1973)は構造機能主義の伝統から、科学において適切かつ正しいとされる規範と価値を概念化した。(1)科学的知識は公共の知識となるべきである(公有性)。(2)科学者はあらゆる形態の私的な利益を放棄する(無私性)。(3)知識は常に精査されるべきである(組織された懐疑主義)。(4)知識に関する主張は非人格的に、またその源から独立して判断されるべきである(普遍性)。
  • ピアレビューに関する研究は、北部アメリカ学派の仮定が、ピアレビューにおけるプロセスにおける科学者の行動を適切に描いていることを示している。(1)Hargens and Herting(1990)によれば、査読者が統一された質の基準に従って判断をしており、普遍性と組織された懐疑主義という2つの規範が働いている。(2)現在までにおいて、実験的なデザインを持った研究によって、体系的なバイアスが働いていることを疑問の余地なく示したものはない。よって、普遍性の規範が働いている。(3)予測の妥当性に関する研究は、編集者と査読者が論文のインパクトを正確に評価できることを明らかにしている。リジェクトされ、後に他のところで刊行された論文は、アクセプトされた論文よりも引用数が際立って少ない。これは、レビューのプロセスにおいて、科学的な質が志向されていることを示している。

 

2.社会構築主義 

  • 社会構築主義の支持者は、北部アメリカ学派の理論的仮定を否定する。
  • 第一の仮定:科学における行動は、Mertonが示した規範に支配されていない。ピアレビューの公正さに関わる研究はすべて、普遍性の規範を検証している。その中には、ピアレビューのプロセスがジェンダーなど、科学的ではない基準によって体系的に影響されていることを示す研究もある。
  • 第二の仮定:科学者は、科学における言説への参加に関して特権を有してはいない。北部アメリカ学派によれば、科学者は長年にわたる大学における研究活動によって、特定の知識と能力を獲得する。このために、科学における言説を適切に行使できるのは、専門家のみとされる。しかし、Harry M. Collinsによる実験によれば、ある分野における知識(重力波物理学)を持った専門家による問いへの答えは、部外者(社会科学者)によって与えられた答えと区別ができなかった。Collinsらによる知見は、同一分野において現役の科学者が、科学的な質を評価するのにもっとも適切であるという仮定、および組織された懐疑主義の仮定に対して矛盾する。
  • 第三の仮定:科学的知識は「ありのままの真実」を反映したものではなく、社会的・局所的に構築されたものである。Cole(1992)によれば、査読者の意見の不一致は、社会構築主義の仮定を実証している。すなわち、審査に影響するのは論文の科学的な妥当性ではなく、局所的・社会的な条件だというものである。予測的な妥当性に関する研究は、一方ではアクセプトされた原稿がその後の研究に対してより大きな影響を持つことを示している。すなわち、「成功するか」、「成功しないか」という選抜の機能は果たしているように見える。他方で、査読者は同じ原稿に対して異なる判断に至ることが示されている。あるジャーナルにおいてリジェクトされた原稿は、別のジャーナルにアクセプトされるのである。このことは、あるジャーナルにおけるレビューのプロセスという、社会的・局所的な条件による影響があることが示唆している。
  • 第四の仮定:科学研究は、レビューを受ける科学者と、レビューを行う科学者による社会的な構築物である。社会構築主義者によると、論文の内容に対して責任があるのは、著者のみではなく、査読者、編集者との共同成果物である。著者は執筆の段階から、レビューのプロセスを予期する。そして、レビューのプロセスにおいては査読者と編集者は、論文の内容に関して自らの利益を実現しようと模索する。

 

3.社会システム理論 

  • 観察者の視点を導入することで、Luhmann(1992)は、構築主義者による知識/対象という区別は維持する。Luhmannにとって知識とは区別の構築であり、その区別は事実と直接の対応を持つわけではない。社会構築主義のアプローチとは異なり(そして北部アメリカ学派に従い)、科学とはLuhmannにとって、「真実」を志向する特有のコミュニケーションの形態である。この志向によって、科学は機能的に文化したシステムとして自らをその環境と区別し、自律的なシステムとして維持できるのである。
  • Luhmann(1992)は、確実性の高い知識を構成する上で、社会システム理論において重要な2つの要素を用いている。それらは、(1)セカンドオーダーの観察、(2)知識の進化である。
  • 社会システム理論によれば、科学は確実性の高い知識を生み出す自己生成的なシステムとして、分化した社会の下位システムである。自己生成的なシステムは再帰的であり、操作的に閉じたシステムである。科学における操作的な要素は、知識のコミュニケーションである。コミュニケーションは、「真実」か「非真実」かの区別(二値コード)を構成するために用いられる際にのみ、科学的であると呼ばれる。
  • (1)セカンドオーダーの観察。Luhmannは、Spencer-Brown(1969)に遡る観察の概念に、社会システム理論の基礎を置いた。Spencer-Brownは『形態の法則』を発展させ、あらゆる観察は2つの要素(指示と区別)から構成されるとした。あらゆる指示の基盤は、観察者によって引かれる内部と外部の区別である。いったん区別を引くと、観察者には「見えない地点」が生まれ、区別の片側しか見ることができない。もう片方の側は、高次の観察によってのみ区別可能である。あらゆる観察は見えない地点に満ちているので、さらに高次の観察を行ったとしても、真実の「よりよい」記述を期待することはできない。
  • Luhmannは観察のフォーマルな定義を、科学における知識の生産プロセスに対して適用した。自然界は自らについて語ることができないために、研究プロセスにおいては、ある自然現象を説明すると主張できるような、ファーストオーダーの観察に頼らなければならない。ファーストオーダーの観察は現象についてのみ言及可能であり、観察それ自体については言及できない。セカンドオーダーの観察を通して、「真実」、または「非真実」として、知識は構成される。
  • セカンドオーダーにおいては、コミュニケーションは、どの観察が関連性を有するのかを判断しなければならない。知見(ファーストオーダーにおける観察)は、ジャーナルに投稿された原稿として表される。セカンドオーダーの観察(批判的評価)によって、査読者たちは論文中の知見を、「真実」、あるいは「非真実」とコードする。セカンドオーダーの観察によってのみ、科学は自らをシステムとして分化させる。
  • (2)知識の進化:Luhmannは、進化論におけるばらつき、淘汰、安定化という要素を、知識の一般化プロセスに適用している。科学は高度のばらつきを持った知見を生み出す。このばらつきは、受容可能な以上の知見が生み出されることを意味する。このために、淘汰のプロセスにおいて、一部の知見がコミュニケーションにすくい上げられ、「真実」であると記される。科学においては、淘汰のプロセスはピアレビューによって行われる。ピアレビューはまた、科学における知識の安定化の機能を満たすことができる。Luhmannによれば、進化のプロセスにおいて、安定化とはシステムが知識体系における変化を避けたり、過去の構造を維持しようしたりする傾向である。このシステムの安定化傾向を乗り越えた新たな知見のみが、間主観的な「真実」となる。