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Emmenegger (2009) "Specificity versus Replaceability: The Relationship between Skills and Preferences for Job Security Regulations"

論文

Emmenegger, Patrick. 2009. "Specificity versus Replaceability: The Relationship between Skills and Preferences for Job Security Regulations." Socio-Economic Review 7: 407-30.

  技能と社会政策への選好の関係について、対立する2つの仮説を検証している論文です。 

 

1. イントロダクション

  • Iversen and Soskice(2001)をはじめとした資本主義の多様性(VoC)の研究では、個人が持つ社会保護に対する選好は、その個人が持つ技能の移転可能性(portability)の関数であると主張される。特殊的技能は一つの企業または産業においてのみ役立つものであるため、それへの投資はリスクの伴う戦略である。よって特殊的な技能へ投資した労働者は、こうしたリスクを緩和する社会保護を求めるとされる。特に、失業保険などの制度において、もっともこうした関連は強いと予想される。
  • VoCの研究とは異なる見方をとるのは、Goldthorpe(2000)によって社会階級の存在を説明するために発展させられた、労働者の代替可能性(replaceability)についての議論である。代替が容易な労働者ほど雇用保護規制を求めると、Goldthorpeは主張する。代替可能性は、仕事を行う上での人的資産(human assets)の特定性、および仕事の監視の困難さの関数である。もっとも代替が容易であるのは、特殊的技能が必要でない仕事を行い、また監視を行いやすい労働者である。

 

2. 相対的な技能の特定性という命題

  • 概して、雇用保護規制は、雇用創出に対する障害だと見なされてきた。しかし、VoCのアプローチでは、雇用保護規制が国家の生産レジームにおいてプラスの貢献を行うことを強調する。長期雇用関係が企業の生産戦略を変化させることが主張される。外的な柔軟性は損なわれるものの、訓練・再訓練を行うことで、企業は内的な柔軟性を増加させるのである。
  • 労働者から見れば雇用保護規制とは、技能へ投資もたらすリターンに対して、保険をかける手段となる。雇用保護規制は、特殊的技能を持った労働者が失業してしまうリスクを緩和するものとなる。
  • 雇用保護規制は、労働者が特殊的技能へ投資を行うことへのインセンティヴをもたらす。労働者はいったん特殊的技能へ投資すると、より強固な雇用保護規制に関心を持つようになる。そのため、相対的な技能の特定性についての命題は、なぜ特定の雇用主と労働者は大きな福祉国家に関心を持つかだけではなく、特殊的技能へ投資した労働者が、こうした投資を保護する政策を好むことを説明しようとする。これに対して、Goldthorpeは、なぜ特殊的技能へ投資する労働者とそうでない労働者がいるのかの説明を行っていない。よって、Goldthorpeの代替可能性についての命題は、野心的なものではない。この結果として2つのアプローチは、すでに特殊的技能への投資を行った(あるいは行っていない)労働者における、雇用保護規制への選好という面においてのみ比較可能である。
  • 相対的な技能の特定性命題は、非常に強い合理性の仮定を置いていることに注意が必要である。そこでは労働者が職業生活の初期において、雇用制度が持つ失業への効果を測定できることを念頭に置いている。しかし、実証研究の結果からこれには疑問が提示されている。これに対してGoldthorpeが述べるところの、いったん特殊的技能へ投資した労働者が、その経済的地位を保護する制度に関心を持つということは、合理性の仮定は弱くなる。
  • 保険としての雇用保護規制を求めるという議論には、いくつかの疑問が残る。特に、特殊的技能と一般的技能という区別は、熟練労働者と非熟練労働者の区別を曖昧にしてしまう。この議論では、非熟練労働者はコストの伴う投資を行っていないため、投資に対するリターンを確保するような雇用保護規制に関心を持たないとする。しかし、これらの労働者は、技能の欠如による失業という別のリスクに直面している。

 

 

3. 代替可能性という命題

  • この命題は、Goldthorpeによって、社会階級の存在を説明するために展開された。階級とは、生産のプロセスにおけるインプットと結果に対して、個人が及ぼせる権力と権利のことを指す。これらの権力と権利が不平等に分布している際に、階級関係は存在する。
  • 「権力」と「権利」は、操作化が困難な非常に抽象的な概念であるため、Goldthorpeとその同僚たちは、職業に目を向けた。階級分類を作成するにあたり、収入、雇用条件、経済的な安定性、経済的な向上可能性の面において、比較可能なように職業カテゴリーがまとめられている。
  • Goldthorpeの階級分類は、そもそも社会階級がなぜ存在するかという疑問に対して答えをもたらしていない。Goldthorpeは近年の論文においてこの問いに挑み、雇用関係によって階級的な位置は定義されると主張している。その結果として、雇用主、自営労働者、被雇用労働者という区別を行っている。
  • 雇用された労働者をさらに区別するために、Eriksonとの共同研究(1992)において用いた、労働契約とサービス関係という区別を用いる。労働契約は、マニュアル労働者と、下級のノンマニュアル労働者において働く。これに対してサービス関係は、専門職・管理職の仕事を組織するものである。EriksonとGoldthorpeにおいて決定的な区別は、労働者の監視の困難性である。サービス関係においては、雇用主と労働者の間に情報の非対称性があり、監視にはコストが伴う。その結果として、雇用主は労働者の職場に対するコミットメントを増加させるような契約を結ぶことに、利害が生まれる。
  • 近年の研究において、Goldthorpeは監視の困難性にくわえて、人的資本の特定性を2つ目の次元として導入している。取引費用の経済学に立脚して、雇用主は特殊な知識をもった労働者を保持することに強い利害を持つと述べるのである。Iversen and Soskiceも、Goldthorpeも取引費用の経済学における概念を用いているにもかかわらず、重要な違いが存在する。Iversen and Soskiceは特殊的技能を一般的技能と対比させているのに対して、Goldthorpeは特殊的技能を技能の欠如(no skills)と対比させているのである。Iversen and Soskiceは技能の総量における相対的な技能の特定性を問題にしているのに対して、Goldthorpeは絶対的な技能の特定性を問題にしている。

 

4. データ、変数の操作化、統計的な手続き

  • 1996年と1997年のISSPの調査をデータとして用いる。1996年のISSPにおける、「政府が衰退する産業の保護をすること」への賛否と、1997年のISSPにおける、「雇用の安定性は仕事の特性としてどれだけ重要だと思うか」の2つを従属変数に用いる。
  • 相対的な技能の特定性と、社会階級を測定する変数は、同時に入れることができない。なぜならば、この2つの変数はどちらも、ISCO-88から作成されるものであるためである。
  • ここではGoldthorpeの階級分類のみを用いる。Iversen and Soskiceの相対的な技能の特性について指標には、疑問が出されているためである。
  • Iversen and Soskiceからは、下級ホワイトカラー労働者は雇用保護規制に対して敵対的であると予想されるのに対して、Goldthorpeからは逆に、下級ホワイトカラー労働者は絶対的な技能の特定性の低さによって雇用保護規制に好意的であると予想される。

 

5. 経験的証拠

  • 結果は、技能の代替可能性についての主張を支持するものである。第一に、サービス関係における労働者は、雇用保護規制に対して批判的である。同じサービス関係でも、上級サラリー階級は下級サラリー階級よりも、雇用保護規制にさらに敵対的である。
  • 1997年のISSPデータを用いた分析では、下級ホワイトカラー労働者は、どのグループよりも雇用保護規制に賛意を示している。
  • しかしながら、問題も残っている。1997年のISSPデータを用いた分析において、上級ブルーカラー労働者は雇用保護規制に対してきわめて高い賛意を示している。上級ブルーカラー労働者は、非常に特殊的な技能を要求する仕事を行っているものの、監視の困難さの度合いは小さい。これに対して、上級ホワイトカラー労働者は、特殊的な技能は小さいものの、仕事の監視は困難である。上級ホワイトカラー労働者よりも上級ブルーカラー労働者がより雇用保護規制を支持していることは、技能の特定性よりも監視の困難さが選好を決定する上で重要な要因であると解釈できるのかもしれない。あるいは、この結果は西洋民主主義国家における脱産業化の影響を表しているのかもしれない。非熟練・半熟練の製造業の仕事が失われてきており、このプロセスは上級ホワイトカラー労働者よりも上級ブルーカラー労働者により影響している。

 

6. 結論

  • 相対的な技能の特定性に関する命題がなぜ支持されなかったについては、2つの説明が可能である。第一に、相対的な技能の特定の命題は、非常に強い合理性の仮定を置いている。しかし、実証研究で示されているように、多くの人々は雇用保護規制が失業に対して保つ効果に気づいていないのである。
  • 第二に、Iversen and Soskiceの議論は、特殊的技能も一般的技能も持たない労働者に拡張することができない。しかし、Goldthorpeの代替可能性命題からは、低技能の労働者がとりわけ雇用保護規制に強い賛意を示すことが期待できる。特殊的な技能は失業して冗長なものになったとしても、将来の雇用主に対して自分は熟練労働者であるというシグナルになるのである。