キケロー『友情について』

 

友情について (岩波文庫)

友情について (岩波文庫)

 

 

友情は数限りない大きな美点を持っているが、疑いもなく最大の美点は、良き希望で未来を照らし、魂が力を失い挫けることのないようにする、ということだ。それは、真の友人を見つめる者は、いわば自分の似姿を見つめることになるからだ。 

人は己れを恃むこと強ければ強いほど、そしてまた、誰の助けも必要とせず、己れのものは全て己れの中にあると考えるまでに、徳と知恵で厚く守られていればいるほど、友情を求め育むことにおいても卓絶するのである。 

財力・能力・資力で大抵のことができる者が、金で贖える他のものは馬にしろ、奴隷にしろ、豪華な衣裳にしろ、高価な食器にしろ、手に入れるのに、いわば人生における最高最美の家具である友人を手に入れないとは、これほど馬鹿げたことがあるだろうか。 

 

 ローマの政治家ガーイウス・ラエリウスによる対話篇という形の作品です。プラトンやアリストテレス哲学と同様に、徳による人間性の完成が強調されており、友情が存在するのも人々の持つ徳ゆえにであるとされています。人は欠乏や弱さのゆえに友情を求めるのではなく、むしろ自立した人々こそ強く友情を求めるのだという箇所は印象的でした。

 また、「いつか敵対しそうな人々とはそれを覚悟した上で友情を結ぶべき」か、あるいは、「いつか敵対しそうな人々は決して愛し始めないよう慎重であるべき」かという議論は、社会科学の信頼形成のモデルを想起させられました。