医学部入試における男女差別(疑惑)の指標
東京新聞:複数医学部、入試不正疑い 大学名 文科省公表せず:社会(TOKYO Web)
複数の大学医学部において、入試の際に性別・浪人であるかどうかによって受験生に異なる得点を与えていたというニュースの関連で、上の記事のように女子の合格率よりも男子の合格率が高い医学部のランキング(2013~2018年度)を見ました。
ネット上ではこのランキングに載っている医学部では男女差別が行われているという断定的な風潮も見かけましたが、個人的に気になったのは個々の医学部で真に差別があるかどうかよりも、使われている指標についてでした。
上記記事における男子優位のランキングは、(男子合格率/女子合格率)という、疫学の用語で言うところの「リスク比」(相対リスク)に基づいています。ただし、格差を見る際の指標は他にもいろいろとありうるものであり、かつざっと見たところ大学によって平均的な合格率が大きく異なるので、他の指標だとどうなるのかが気になりました。メジャーな指標としては、リスク差、オッズ比が考えられます。これらの関係は、男子合格率、女子合格率とした際に、以下のようになります。
- リスク比:
- リスク差:
- オッズ比:
これらを計算したのが下の表になります(確率は%表示)。
P(M) | P(F) | RR | Rank | RD | Rank | OR | Rank | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
順天堂大 | 9.16 | 5.5 | 1.67 | 1 | 3.66 | 9 | 1.73 | 1 | |||
東北医科薬科大 | 14.69 | 9.51 | 1.54 | 2 | 5.18 | 8 | 1.64 | 3 | |||
昭和大 | 6.54 | 4.25 | 1.54 | 3 | 2.29 | 12 | 1.58 | 4 | |||
日本大 | 6.5 | 4.36 | 1.49 | 4 | 2.14 | 13 | 1.52 | 6 | |||
九州大 | 33.51 | 23.48 | 1.43 | 5 | 10.03 | 1 | 1.64 | 2 | |||
慶應義塾大 | 12.54 | 9.18 | 1.37 | 6 | 3.36 | 10 | 1.42 | 10 | |||
大阪市立大 | 32.63 | 24.01 | 1.36 | 7 | 8.62 | 2 | 1.53 | 5 | |||
埼玉医科大 | 5.04 | 3.74 | 1.35 | 8 | 1.3 | 15 | 1.37 | 13 | |||
新潟大 | 30.96 | 23.23 | 1.33 | 9 | 7.73 | 3 | 1.48 | 7 | |||
筑波大 | 25.46 | 19.28 | 1.32 | 10 | 6.18 | 6 | 1.43 | 9 | |||
岡山大 | 31.38 | 23.79 | 1.32 | 11 | 7.59 | 4 | 1.46 | 8 | |||
高知大 | 23.75 | 18.06 | 1.32 | 12 | 5.69 | 7 | 1.41 | 11 | |||
大阪医科大 | 11.28 | 8.65 | 1.30 | 13 | 2.63 | 11 | 1.34 | 14 | |||
東京医科大 | 6.79 | 5.27 | 1.29 | 14 | 1.52 | 14 | 1.31 | 15 | |||
山形大 | 28.67 | 22.28 | 1.29 | 15 | 6.39 | 5 | 1.40 | 12 |
リスク差は合格率が高い場合の格差に敏感であり、リスク差に基づくと九州大が1位、大阪市立大が2位となります。オッズ比はリスク差ほどではないものの、合格率の上昇に対して敏感に反応します。また一般的に言われるように、リスク発生率が低い場合にはリスク比とオッズ比は近い値を取りますが、リスク発生率が高くなるにつれて両者の乖離は大きくなります。
こちらの論文では、リスク比、リスク差、オッズ比が単調的な関係にはないことが図示され、注意が促されています。また主に解釈の容易さから、疫学の分野では症例対照研究でない限りはオッズ比よりもリスク比の使用を勧める文献が多いようです。ただしこちらの記事では、背後にある因果関係が変化していないにもかかわらず、リスク発生率が上昇するにつれて、リスク比は因果効果を過小評価する恐れがあることが述べられています。