坂井豊貴(2015)『多数決を疑う――社会的選択理論とは何か』
多数決が集約ルールのうちの一つに過ぎず、いろいろな問題点を抱えていることを指摘した上で、他にどのような方法があるのかが平易に解説されています。
本書でも指摘されているように、「コンドルセのパラドックスではサイクルが発生してしまうので、多数決による民主主義は困難である」というような記述で終わっている本もあるので、その後のコンドルセの思想、特に彼が最尤法による意思の集約を考えていたという箇所は、目から鱗でした。
他にも、アローの不可能性定理における二項独立性の仮定がかなり強いものであるというのも勉強になりました。一見すると、「2つの選択肢の比較において第三の選択肢の追加はいっさい結果に影響しない」というのは一見すると弱い仮定にも思えますが、むしろ新たな選択肢・情報の追加によって人々の選好順序が変わるということのほうが、たしかに自然なのかもしれません。
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投票で「多数の人々の意思をひとつに集約する仕組み」を集約ルールと呼ぶ際に、多数決はそのうちの一つに過ぎない
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候補者が3人以上いる際に、多数決はペア敗者基準(いかなるときもペア敗者を選ばないという基準)を満たさない
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選択肢が3つのときに1位に3点、2位に2点、3位に1点を割り振るルールのことをボルダルールと呼ぶ
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ボルダルールはスコアリングルールの一つであり、スコアリングルールの中でペア敗者基準を満たす唯一のものである
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当選者が複数いる選挙でボルダルールを用いると、組織力の高い集団はクローン候補を擁立して上位を独占することができてしまう(クローン問題)
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コンドルセはボルダルールがペア勝者基準(ペアごとの多数決で常に勝つ選択肢が勝者となる)が満たされないことを指摘した
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コンドルセはボルダルールを含むスコアリングルールのすべてを否定したが、多数決が票の割れを起こしてしまい、多数者の意思が尊重されないという意見ではボルダと一致していた
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コンドルセは、得票差の小さいペアの順序は正しくない可能性が高く、棄却すべきと考えており、これは後にペイトン・ヤングによって最尤法の考えが導入されていたことが指摘されている
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コンドルセ・ヤングの方法は、ペア勝者基準を満たすものの、チャレンジ型多数決(段階的な多数決)において、棄権防止性(あえて棄権することで自らに有利な結果を導くということが防止されている)を満たさない
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ボルダルールはペア勝者基準を満たさないものの、ペア勝者弱基準(ペア勝者が少なくとも最下位にはならない)、ペア敗者基準、棄権防止性、中立性を満たし、総合的に見て優れている