Kim and Shirahase (2014) "Understanding Intra-regional Variation in Gender Inequality in East Asia: Decomposition of Cross-national Differences in the Gender Earnings Gap"
Kim, Young-Mi and Sawako Shirahase. 2014. "Understanding Intra-regional Variation in Gender Inequality in East Asia: Decomposition of Cross-national Differences in the Gender Earnings Gap." International Sociology 29(3): 229-48.
導入
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主要な特徴は、家族が一義的な福祉の担い手であり、社会政策が経済政策に従属し、社会権の保障に対する国家の介入が最小限に留まるというものであり、これらが社会政策と福祉供給の未成熟につながっている
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東アジアはジェンダー不平等がもっとも大きい国々だとみなされることが多いものの、実際のところ2005年のGender Empowerment Indexでは、日本が55位、韓国が65位、台湾が19位となっており、同じ水準にあるわけではない
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こうした東アジア内のばらつきについては、Brinton(2001)が「台湾の例外主義」(Taiwan's exceptionalism)と呼んでいる
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関連する東アジア社会の比較研究は、もっぱら女性の教育達成、労働参加、職業達成に焦点を当てており、男女間所得格差の研究は少ない
男女間所得格差の国家間の違いを生み出すもの
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男女間の所得格差が、所得を生み出す特性の分布の違いと、男女が同じ仕事を有している際の報酬の違いとに区別できるというのが、分解アプローチに通底する仮定である
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男女間所得格差の国家間のばらつきに対して、分解を行っている研究は少ない
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4つの仮説が考えられる
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(1)2つの国における女性が、所得を生み出す特性の分布に関して異なる(女性の属性の差異仮説)
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(2)2つの国において、所得を生み出す特性に対して男女がどのように割り振られるかが異なる(ジェンダー構成の差異仮説)
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(3)所得を生み出す特性へのリターンの男女間格差が2つの国において異なる(報酬差別の差異仮説)
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(4)2つの国において、所得構造が異なる(所得構造の差異仮説)
国レベルの文脈:東アジアの国家間の類似性と差異
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福祉国家は2つの方法で女性の経済的機会を拡大する上で2つの役割を持つ:(1)女性に対する経済政策と家族サービスの法制者・供給者、(2)女性の経済的機会を拡大する雇用主
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この2つのどちらの側面においても、日本・韓国・台湾はOECD平均を大きく下回っている;賃金補償付きの育児休暇と公的保育サービスの供給水準は、これら3ヶ国でいずれも非常に低い
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社会政策にくらべて、労働市場の構造と特徴に関しては大きな違いがみられる;いずれの国も輸出志向の成長戦略を強固な政府が主導してきたものの、国家と市場の相互作用、あるいは権力構造の歴史-制度的な差異によって、中核的な成長戦略は分岐した
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結果として、日本と韓国では程度は異なるものの、重工業を中心に下請け企業が大企業に垂直統合された複合体に特徴づけられ、台湾では軽産業を中心に小規模の家族経営企業が緩やかに統合されたネットワークを保ってきた
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こうした強固な内部労働市場によって、女性の採用と昇進における統計的差別によって、大企業における女性の採用と昇進が不利になると予想される
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日本の強固な内部労働市場はまた、雇用主が差別的な実践を行う上での抜け道を容易にするので、同一の仕事における報酬差別を引き起こす構造的要因となりうる
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韓国の大企業における内部労働市場には2つの際立った特徴がある:(1)徴兵制によって広まる軍隊文化とおそらく関連した、高度に男性的な組織文化、(2)大企業と中小企業の間での大きな給与格差
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台湾の労働市場は中小企業の繁栄によって特徴づけられており、国家によって支援された中核的な企業がなく、より自由化・脱中心化されたものとみなせる
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台湾の中小企業では、組織のヒエラルキーは均一であり、キャリアの階梯も短い
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これらの企業はまた、インフォーマルな組織文化と柔軟な勤務スケジュールを有しており、女性従業員が仕事と家庭を調和させる上でのニーズに合致する
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大企業と中小企業の賃金格差が小さいということも女性の良好な経済的機会をもたらす要因であり、雇用主が統計的差別を行うインセンティヴを取り除くものになっている
データ
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2005年SSMの日本・韓国・台湾調査を使用
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それぞれの調査は20~69歳の男女を対象にしており、サンプルサイズは日本が5746、韓国が2080、台湾が5379
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自営労働者を除いた、最終的な分析サンプルは日本が2186、韓国が472、台湾が3111
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従属変数は時給を対数を変換したもの(計算元になっているのは年間の税込み所得)
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2005年の為替レートによって米ドルに基準化した
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Rosenfeld and Kalleberg(1990)の所得達成モデルに従い、(a)個人属性(ジェンダー、年齢、学歴、労働経験年数)、(b)従業上の地位(雇用形態・職業)、(c)家族責任(婚姻状態・子どもの数)を投入
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労働経験年数はSSMの職歴データから計算
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職業はISCOの1桁分類を使用;ただし、サンプルサイズの問題からカテゴリー1と2を統合し、またカテゴリー6の農業労働者はカテゴリー9のelementaryに統合した
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企業規模は小企業(30人未満)、中企業(30~300人)、大企業(300人以上)
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子どもの数は6歳以下の同居する子どもと、7~18歳の同居する子どもとを分けた
方法
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Plasman and Sissoko(2004)に従い、A国とB国の男女間所得格差をととするときに、下記のように分解()
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上式右辺の第一項から第四項がそれぞれ、(1)女性の属性効果の差異、(2)ジェンダー構成効果の差異、(3)報酬差別効果の差異、(4)所得構造効果の差異に対応する
結果
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国別に見ると、ジェンダー構成の差異で説明できる格差は、日本が36.3%、台湾が29.1%、韓国が18.4%であり、日本では労働経験年数、就業形態、企業規模が男女で大きく異なることを反映している
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男女間所得格差の差異は、日本と台湾で0.337、韓国と台湾で0.138
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日本と台湾の間の差異は、ジェンダー構成の差異と、報酬差別の差異によって主に説明される;とりわけ、女性のパートタイム労働への集中と、女性が労働経験年数へのリターンにおいて不利であることが大きな要因となっている
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韓国と台湾の比較においても、ジェンダー構成の差異仮説と報酬差別の差異仮説が当てはまる
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さらに、男女での年齢に対するリターンの格差が、韓国・台湾の差異に大きく寄与している
結論
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国レベルの政策が重要ではないというわけではないものの、政策の類似性にもかかわらず、雇用慣行という需要側の多様性によって、異なるジェンダー不平等が生み出されている
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しかし、この論文の分析結果は、同一の仕事における報酬差別へと注意を向ける必要性を示している