草薙龍瞬(2015)『反応しない練習――あらゆる悩みが消えていくブッダの超・合理的な「考え方」』

 

 

 著者は特定の宗派に属さない独立した僧侶とのことで、また、16歳で家出・放浪→独学で東大に入学→政策シンクタンク→インドで出家という、かなりの異色なキャリアに驚かされました。

 禅に関する本をいくつか読んできたこともあり、「判断をやめ、現在の心のあり方を観察する」というのは理解しやすかったです。他方で、タイトルにある「合理的」というのは最初にひっかかったところで、というのもマックス・ヴェーバーは仏教を目的合理的ではない宗教に分類していたではないか、といったことが頭によぎったのでしょう。

 著者によると、本書が扱っているのは原始仏教と呼ばれる2500年以上前にブッダがもともと説いたもっとも古い教えであり、ブッダは人間が生きる上での悩みをいかに解決するかという目的に対して、徹底的に合理的な思考をしていたとのことです。

 通俗的な仏教の理解だと、世俗的な価値の全面的な否定という印象をともすれば持ってしまいがちですが、本書ではむしろ「快」の状態はむしろ増やすべきという主張をしており、新鮮でした。また、競争社会という現実の中でいかに生きるべきかという問題に対して、競争に乗るか降りるかという二者択一ではなく、競争の中を別の価値観で生きるという選択肢があるというのは、以前に読んだ本にあった、「継続した成長」をモチベーションとする姿勢に通ずるものがあると思います。