Rözer and Bol(2019)「ライフサイクルと時間を通じた一般教育と職業教育の労働市場への効果」

 

Rözer, Jesper and Thijs Bol. 2019. "Labour Market Effects of General and Vocational Education over the Life-Cycle and across Time: Accounting for Age, Period, and Cohort Effects." European Sociological Review 35(5): 701-17.

 

  • 職業教育の労働市場へのリターンは、ライフサイクルを通して変化すると議論されている;職業に特化した学位を得た人々は労働市場への円滑な移行を経験しやすい一方で、後のキャリアで特殊的なスキルが陳腐化した際に困難に直面するというものである
  • こうしたライフコース上のペナルティは、技術変化が急激な時代に特に大きくなると予想されるものの、既存研究は年齢効果の観点のみを扱ったものがおおく、コーホート効果と時代効果には注意が払われていない
  • 主要なリサーチクエスチョンは、「職業に特化した学位にくらべた一般教育の就業と職業的地位へのライフサイクルを通じた効果はどのようなものか」である
  • 職業教育を受けた人々は、一般教育を受けた人々にくらべてキャリアの初めにおいて雇用を得やすいものの、一般教育を受けた人々はより柔軟であるためこのパターンはキャリアを経るにつれて逆転すると予想する
  • さらに職業教育は長期の契約へのアクセスをもたらすことで失業にを防ぐ上では効果的であるものの、このことによってより高い地位を探すインセンティブや可能性を減らすことで、一般教育を受けた人々ほどより職業的地位の上昇速度が早いと予想する
  • オランダ労働力調査(Dutch Labour Force Survey)の1996~2012年データを用いて分析する
  • 1999年からは交代制のパネルデザイン(rotating panel design)が採用され、対象者は12ヶ月の間に5回連続で調査されるようになったものの、分析を複雑化しないために第一波の調査のみを分析に含める
  • 調査時点で教育を受けていない20~65歳の人々を対象とし、欠損値に関してリストワイズ削除を行ったところ、分析サンプルは1,143,652人となった
  • 第一の従属変数は就業の有無であり、第二の従属変数はISCO-08で測られたISEI(最小値10、最大値90)である
  • 職業教育のリンケージの強さは、近年の研究のトレンドに従い、一般教育・職業教育の二分法ではなく、漸次的(gradual)なものとして捉える;具体的には、教育プログラムと職業の関係を局所的な分離(local segregation)として捉えたものを利用する
  • DiPrete et al.(2017)にしたがい、セル度数の小ささが分析に影響することを避けるため、100未満の対象者しか存在しない教育プログラムは分析から除外したところ、312の分野が残った
  • ふたたびDiPrete et al.(2017)にしたがい、ISCO-08の上3桁によって職業分類を作成し、さらに軍関係の職業は除外したところ、128の職業カテゴリーが分析に用いられた
  • この分析では学歴レベルではなく職業特定性の強さに関心があるため、学歴レベルはダミー変数によって統制した
  • また、対象者がオランダ国籍を有するか、あるいはオランダ生まれである場合には1、そうでない場合は0とするダミー変数も統制変数に含めた
  • 時代=年齢+コーホートという完全共線性をいかに統制するかが問題となる;この分析では、コーホート効果は存在しないという仮定を置く
  • 就業の有無に関してはロジスティック回帰を、職業的地位に関してはOLS回帰を用いる
  • モデル1では年齢、時代、職業的特定性の強さを投入し、モデル2では年齢×職業的特定性の交互作用を、モデル3では時代×年齢×職業的特定性の交互作用を投入した
  • 既存研究と整合して、職業的特定性の強い教育プログラムを経験した人々は労働市場への円滑な移行を得やすくなっている;ただし、一般教育にくらべて職業教育を受けた人々はキャリアの初期時点で地位の低い仕事につきやすい
  • 職業教育にはトレードオフが見みられ、キャリア初期の有利さは年齢を経るにつれて減少していく;職業教育の有利さがなくなるのは、男性が55歳、女性が60歳ころである
  • ただし、Hanushek et al.(2017)が示しているような、キャリア後期において一般教育と職業教育の就業確率の逆転は見出されなかった
  • さらに、キャリア初期からはじまる一般教育の職業敵地位への有利さは、ライフサイクルを通じてさらに拡大する
  • 時代効果に関して既存研究によれば、技術変化が急激な時代ほど職業特定的スキルは陳腐化しやすく、ペナルティが大きくなると予想していた;しかし、1996年と2012年という異なる時代を比較して、この証拠はほとんどみられなかった;職業的地位に関しては、一般教育を受けた女性が近年ほどより望ましい仕事につきやすいという傾向はみられたものの、この効果は非常に小さかった
  • こうした時代効果がほとんどみられなかったことは、技術変化や外注化、柔軟化によって特徴化される現代において、一般教育がより好ましいものとなっているという考え方に反するものである;実際にはこうした要素の発展は既存研究で示唆されるよりも緩慢なものなのかもしれない
  • 時代効果がみられなかったのは、対象とした国に特有なものという主張もあるかもしれない;しかし、オランダは過去数十年に大きな技術変化が起きているし、労働市場の柔軟化については国際的にみて非常に早いペースなのである
  • この研究の限界としては、個人が特定の教育プログラムを選択することが考慮されていない;よって職業教育の効果と個人の選択の効果を分離できていない;さらに近年では教育拡大によって学歴水準が上昇しており、どのような教育プログラムを選択するかの影響は時代によっても変化しているかもしれない
  • 職業教育を選択する人々は中退率が相対的に低いということも考慮できていない
  • 分析の知見から示唆されるのは、特に若年者の就業を改善する政策としては職業志向の教育プログラムがより効果的であり、他方で長期にわたった職業的発達を目的とした政策としては、一般教育を重視するのがより効果的だろうということである